第6話 縁談
カチッ、カチッ
火打石の鳴る音が響く。
「いってらっしゃい」
切り火はずっと続けている。
私は笑顔でいるはずだけど笑えているのだろうか?
ウィルへの祈りはもう届かないが、冒険者が少しでも多く帰ってきてくれること願っている。
☆ ☆ ☆
ダニエルさんがうちを拠点にしたのは3年前。
パーティで逗留を始めたのだけど、いつの間にソロで活動をするようになっていた。
ルー兄ぃもいつの間にかみたいな感じだったのかな?
2つ上とは思えないくらい若い雰囲気があって、並んでも私の方が年上に見られた。
とにかく元気いっぱい喜びいっぱいといった感じで、落ち込むとか沈むとか無縁そうな雰囲気を纏う人。
活力溢れる姿以外見たことが無いし、噂話にも耳にしたことが無い。
悲壮感漂う私でも冒険談や失敗談は楽しませてもらった。
カチッ、カチッ
火打石の鳴る音が響く。
「ダニエルさんいってらっしゃい」
切り火をして笑顔で送る。
「アドリーヌさん行ってきます!」
ダニエルさんの笑顔にはこっちが元気をもらう。
☆ ☆ ☆
ウィルの死後しばらくしてから、私を気遣って一族総出で縁談を探してきてくれた。
ウィル以上の人物が望めないことも、同じくらいに愛せないであろうこともみんな分かっている。
それでも好条件での婚姻が望めるのは10代までだ。
各家庭に推された方とお見合いをした。
我が一族ながら流石だと思った。
商家としての伝手を使い
宿屋の次男、豪商の甥、新人騎士、上級冒険者など、中には貴族の落し胤なんて方もいた。
いずれの方々も婿入りで構わないともったいないくらいの好条件。
お会いしても好印象の方ばかりだった。
わかってはいる。
それでも結婚に踏み切ることがどうしてもできなかった。
突然失った幸せ。
ウィルの顔、匂いが、ぬくもりが頭に浮かぶ。
何よりまた失う可能性が怖くて手を伸ばすことができなかった。
真剣に考えれば考えるほどお相手を前にして涙を流した。
私の事情が伝わっていたおかげか失礼だと怒る方はいなかった。
それでもと側にいてくれたら私の心は
そっと腕輪をさすり物思いに沈み込む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます