第4話 ウィル
定期的に近況を知らせる便りが届いていた。
私はウィルからの手紙を受け取るとまず抱きしめる。
そして愛おしい気持ちで開封する。
王都での苦労も謁見での失敗もウィルにかかれば、気安い笑い話になった。
難易度の高いクエストやダンジョンでの冒険がさらに面白かったのはいうまでもない。
どこで知り合ったのかウィルは勇者様と交流していると伝えてきた。
なんで出会えるのか不思議だけど、実力が目に留まったと思えば私のことのように嬉しかった。
勇者様との逸話のなかで今でもしている習慣に興味を惹かれた。
出立の際に火打石の火花で身を清め、同時に安全を祈願するのだそうだ。
これを『切り火』といい、勇者様は毎朝パートナーにしてもらっているとか。
ノロケだよねと軽く書いていたのには驚かされた。
勇者様にあやかろう。
ウィルとは会えなかったが、ウィルのために切り火をすることにした。
もちろん本人はいないから宿の冒険者をウィルに見立てた。
毎朝、宿を利用してくれた冒険者を送り出すときに切り火をする。
冒険者の無事を祈り、その向こうにウィルの安全を祈願する。
切り火の日課は好評だった。
勇者様の習慣ということも相まって、ご近所でも火打石の音が聞こえるようになっていった。
☆ ☆ ☆
2年が経った。
パドレアスの虹は見事上級クラスへランクアップして凱旋した。
誰一人欠けていない。
とんでもないペースで私の英雄は誰もが認める実力を示せるようになった。
迎えた街のみんなは鼻高々で、誇り高いものに向ける眼差しを送る。
『虹』といえばウィルたちを指すほどの知名度になっていた。
ウィルが帰ってきてからの日々は輝いていた。
カチッ、カチッ
火打石の鳴る音が響く。
「いってらっしゃい」
「いってくるよアディ」
そっと私は抱きしめられウィルの匂いを強く感じる。
汗の男の香りが愛おしい。
初めてウィルに切り火をしたら目を見開いて驚いていた。
理由を離したら痛いくらい強く抱きしめられた。
気持ちは側にいるからね。
何をするにも楽しくて仕方がない。
ウィルが笑えば私も笑い、私が笑えばウィルも笑う。
目があえばお互いに微笑み合い心までつながっていると思えた。
18歳。
結婚を意識せずにはいられなかった。
ウィルからの言葉を今か今かと待ち望んでいた。
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