第3話 プロポーズ
腕白で引っ張ってくれる頼もしい男の子ウィル。
ルー兄ぃが亡くなった後、彼はこんな事を言うようになった。
「成功してアディをお嫁さんにする!」
嬉しかった。
形見分けの短剣で鍛錬に励む姿は遺志を継いで頑張っているようにも見えた。
私も腕輪を身に着けている。
「ウィルと王都の教会で祝福されるの!」
なんてウィルに応えていた。
この街は複数の初級~中級ダンジョンまでアクセスが良く、ダンジョン資源を産業の柱としいてる都市だ。
住民は冒険者の先祖が多く、今でも移住者は絶えない。
だからか12歳になると同い年でパーティーを組み初級のダンジョンに入る伝統がある。
男女を問わないすべての12歳が対象だ。
1年間のダンジョンアタックでレベルを上げるのが通例、1年経つと大雑把に進路を定める。
街で生きるのか冒険者になるのかをだ。
私は幼馴染6人とパーティーを組んだ。
ウィルは訓練をしてきた努力からか、才能があるからなのか飛び抜けて強かった。
その後の活躍を考えれば両方なのだろう。
トライする初級ダンジョンでは物足りなかったに違いない。
しかしパーティーのリーダーとしてみんなを率い、笑わせて、励まし、ときには怒った。
1年後は誰も欠けることなく迎えることができた。
ウィルは私の小さな英雄になっていた。
ウィルが何か迷っているのは知っていた。
時期的には進路だろう。
私は宿を継ぐと宣言していたので冒険者とはならい。
一番仲のいいウィルとは今でも一緒にいることが多い。
この時は買い物帰りに夕焼けを見ていた。
「俺も・・・」
とウィルは夕焼けではない遠くを見ながらつぶやいた。
見ると手を固く握りしめていた。
ルー兄ぃを思い出したのだろう、きっとこの時に覚悟を決めたのだと思う。
結局、幼馴染パーティーは冒険者として正式に登録し私が抜けた5人で続けることになった。
パーティー名は『パドレアスの虹』という名前になった。
パドレアスはこの街の名前だ。
虹は5人に私とルー兄ぃを加えた7人のことだと思う。
はっきりと聞いたことはないけど、みんなの理解とウィルらしいなという思いとで口元が緩んだ。
私の生活は以前に戻った。
元々宿を継ぐ気で仕込まれていたし、レベルが上がって仕事がやりやすくなった。
パドレアスの虹はウィルを中心にメキメキと頭角を現した。
2年経つ頃には10代でも頭一つ抜けて実力が知られる存在になっていた。
中級冒険者としてランクアップしたのもこの頃。
誰もが輝かしい未来を信じて疑わなかったし、私も王都の教会が夢でなくなってきたことに期待を募らせていった。
「アディやったぞ!」
私を目にするなりそう言ってウィルは駆けてきた。
「どうしたの?」
私を抱きしめると抱えてぐるぐると回りだした。
それなのにブレることもない。
もう小さい英雄ではないんだと少し寂しく思った。
「やったんだ!中級にランクアップしたんだ!」
「えっ!おめでとう!」
若干目が回ったものの、ウィルの喜びは十分に伝わっていた。
中級ともなればこの街のトップグループに手が届く。
そしてルー兄ぃと同じランクでもある。
「アディ・・結婚しよう!」
「えっ」
慌ててウィルを見るが、私を真っ直ぐに見つめている。
本気なのだ。
「もちろん今すぐじゃない。必ず結果を出す上級クラスになったら結婚しよう」
「うん!一緒に頑張ろうね!」
ルー兄ぃとの思い出があったからだろう。
私が恋していたのも知っていて同じランクを目標に、そして超えることで本当の区切りにするつもりだったのだ。
純粋。
ウィルはそう呼ぶに
キラキラと楽しそうな目は私が一番好きなところの一つだ。
一番がたくさんあるのがウィルの最もいい所だろう。
しかし私の英雄は少し鈍い。
ルー兄ぃへの恋心は思い出だけどウィルへの想いを阻むものじゃない。
ウィルからすれば気にせずにはいられないか。
どこかはっきりとした区切りは必要だったのだろう。
ただ上級はやりすぎじゃない?
少なくとも私は乗り気でいるのだ。
そんなに待たせずにもっと早く結婚してもいいと思う。
私たちは婚約をした。
ふつう明日も定かではない職業の冒険者とは婚約をしない。
するなら結婚だ。
婚約となったのはウィルの意思によるところが大きい。
私の一族もウィルの家族も全面的に祝福している。
何よりウィルたちへの期待と目覚ましい活躍もあって、誰からの横やりも入らなかった。
しかしこの街で上級になるには時間がかかる。
近隣には中級ダンジョンしかないからレベル上げは時間がかかるし、冒険者としての実績が作れないからだ。
早いランクアップを目指すなら街を出るしかない。
まずは王都、そして上級ダンジョンを目指すのが一般的だろう。
だからパドレアスの虹も街を出て上級を目指し始めた。
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