第2話 初恋

 小さい頃の話だ。

 私には仲のいい幼馴染が何人かいてよく一緒に遊んでいた。

 中でも一番仲が良かったのがウィリアムことウィルだった。

 ままごとをしたり、冒険者ごっこをしたり、とにかく楽しかった記憶しかない。


 そして宿うちを常宿にして数年になるお兄さんがいた。

 冒険者で名前はルーカスさんという。

 私は恋心、幼馴染のウィルは憧れからお兄さんにべったりで「ルー兄ぃ」と呼んでつきまとっていた。

 思い出補正もあるのだろうが、笑顔の素敵な本当に格好良くて強い人だった。


 ルー兄ぃのように数年も長逗留する冒険者は珍しい。

 だからなんでずっと宿にいるのか聞いてみたことがある。 


  宿の居心地がいいんだ。

  街の居心地もいいんだ。

  ここだと冒険者として人並以上に稼げるんだ。

  だからここにいるし、骨を埋めてもいいかなって思ってる。


 そんな事をはにかみながら言っていた。

 記憶にはないが私は食事の席で喜々として話していたらしい。

 ずっと居てくれるのが嬉しかったのだろうが、何度も蒸し返されては顔を赤くしたものだ。


 ☆ ☆ ☆


 今となっては分からないがルー兄ぃには想い人がいた。

 これは確信だ。

 もしかしたら母だろうか?

 親戚の誰かだろうか?

 娼婦もなくはない。

 それとも見知らぬひとか。


 想像すると切ない。


 嫉妬ではない。

 表に出なかった恋だからだ。


 ある日、ルー兄ぃは帰らなかった。

 私が10歳くらいの頃。


 近隣でも最難関の中級ダンジョン、ルー兄ぃのパーティーは異常個体に出くわした。


 異常個体と率いられた群れ。

 油断とか不意打ちとかではなく歯が立たなかったらしい。

 誰かが犠牲になるしかなかった。


 ルー兄ぃは殿しんがりを引き受けメンバーを逃した。

 生き残ったパーティーメンバーも片腕が無かったり、失明していたりと酷い有様だったらしい。


 半死半生で帰還するとダンジョンは一時立ち入りが制限されることになった。

 しばらくして、上級冒険者が異常個体を討伐したがルー兄ぃの姿はどこにもなかった。


 うちのお客さんはほとんどが冒険者だ。

 冒険者が探索から戻ってこないことは珍しくない。


 死亡が確定すると宿の入り口にある掲示板に弔いの掲示をし献花台を設ける。

 掲示自体は冒険者ギルドの要請があるからどこの宿も同じだ。


 部屋を清め荷物を一旦預かる。

 遺産の配分について冒険者ギルドに調整を依頼するためだ。


 ルー兄ぃくらい長くいるともはや家族同然だった。

 人当たりがよく近隣の住人とも親しい。

 冒険者として仲間のために逝ったのだ華やかに送りたかった。

 弔いの掲示だけではなく神官を呼び食堂を使って祈祷を行う。


 人柄だろう食堂には涙声が絶えず、一角に安置された剣の前は弔問客が手向けた花で溢れた。


 調整の結果、荷物はパーティーメンバーが引き取っていった。

 その中からウィルは短剣を私は腕輪を形見分けされた。


 想い人は現れなかったらしい。

 いなかったはずはないのだ。

 だって腕輪は花がデザインされていて、保存処理されたカティア・・・・花弁はなびらと共に大切に包装されていたのだから。

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