2つのプロポーズ ~ずっとそばにいてください~
とと
第1話 プロローグ
高祖母の祖母から始まる女系家族。
移住の決め手は街を華やかに飾る花だったという。
高祖母の祖母を熱くさせたのは街並だけだったのか。
この街は花で溢れる街並から『花咲く都』と呼ばれることがある。
昔から1年中花が手に入り様々な場所に飾られてきた。
『画家のパレットのように色が溢れ、調和のとれた絵画も先鋭的な彫刻も飲み込み新しいアートが生まれるような神に祝福された街』
とは、この街の住民なら誰でも知っている少々長いキャッチコピーだ。
熱に浮かされた高祖母の祖母が、愛するこの街のために考え、遺志を受け継いだ一族が広めたのだ。
街のあらゆるガイドに載せてあるので目にする機会も多いだろう。
私には親戚筋も多く一族総出で冒険者絡みの商売を商っており、長い商いの結果冒険者ギルド近くの一角は縁戚の運営する商会たちが占めている。
高祖母の祖母の影響は大きい。
花好きは遺伝なのか花を好むのは私だけではない。
一族のほぼ全員、少なくとも女性は花を身近に大切に愛し愛されて育つ。
そんな一族だから各家庭で気に入っている花があって、家の装いにも個性がある。
一族が住まう一角は花飾りのアートが観光対象となるくらいで『アトリエ街』なんても二つ名もあり、家紋というほどではないが、家のデザインや看板は花をモチーフにした意匠となっている。
我が家の家業は宿屋で高祖父母が興した。
手頃で美味い食事処としても居心地が良すぎる宿としてもそこそこ名が知れている。
今日は昼のピークが落ち着いた後、祖母がご近所さんと噂話に花を咲かせている。
ときおり暇をしている冒険者に絡むとかはありふれた宿屋の風景だ。
現在、四代目の母が中心となって宿を切り盛りしている。
祖母は母をフォローしつつもご近所さんとのコミュニケーションに余念がない。
私は後継者としての勉強と主に食堂の給仕をしている。
日中は家事を終えた親戚が小遣い稼ぎに集まるので、宿の仕事で大きな負担を感じたことはない。
私は20をいくつか越えており婚期を逃した状態だ。
みんなが看板娘だと私を持ち上げて褒めてもらえるのは嬉しい。
家族も私にいい人がと期待もしているだろう。
それでも・・・。
☆ ☆ ☆
カチッ、カチッ
火打石の鳴る音が響く。
「いってらっしゃい」
切り火を打って冒険者を送り出す。
「「おう行ってくるよ!」」
みんな笑顔で返してくれる。
私は笑顔でいるはずだけど笑えているのだろうか?
切り火をする度に胸の奥が痛い。
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