6話 男心は難しい
「七瀬さん、コーヒーいる?」
「あ、編集長、ありがとうございます」
涼と再会して1週間後。
その間、何も起こらず、平和に過ごしていた。
拓海と一緒に買い物に行ったり、公園に行ったり、仕事をしたり、の繰り返し。そろそろ子供持ちっていうのも慣れてきたかな、って感じです。
ただ、問題は。
「舞華、オムライス美味しい」
「そうですか。よかったです」
そう、涼だ。あろうことか、ふらっと我が家にやってきては、拓海と遊び、ご飯を食べ、帰っていく。もう!!鬼桜先生ファンに見られたら、私、死ぬ。スキャンダルだよ!!スキャンダル!!
「俺が入れたコーヒーは、どう?」
「・・・・・・憎らしいほど美味しい」
「良かった」
こないだなんて、近所の人に、彼氏かっこいいわね。って言われたんだからね!!全くもって違いますから!!
でも、拓海は懐いてしまっているし、ああ、もうどうすればいいのよ!?
カタカタカタカタとパソコンのキーボードを叩いていく。最後にエンターキーを、タンッと叩く。
「編集長の入れるコーヒー、めちゃくちゃ美味しいです」
「そうかしら?旦那のおかげね」
「旦那さんの?」
「ええ。私の旦那ね、喫茶店を開いているのよ」
「へえ。いいですね。今度行ってみよ」
「その時は私がご馳走するわ」
「よろしくお願いします」
編集長の名前は、
「舞華〜、お客さんだよ〜」
「へ?私に?」
「そうそう。なんだか、めちゃくちゃイケメンの弁護士さん」
「はい?弁護士?」
私、何か訴えるようなことしたっけ?もしかして、涼との不倫?いやいや。まず付き合ってもないし?いや、もしかしたら涼の彼女が・・・・・・。いや、涼彼女いないって言っていたし?
◇◆◇
下のカフェにいくと、オーラ?何かが違う男の人がいた。
「こんにちは。七瀬舞華です」
「こんにちは。颯樹里です」
へえ。確かにイケメン。うん。いかにも女の子が好きそうな顔をしている。そうだな。あだ名は
「で、弁護士がなんのようですか?」
颯さんはものすごく心外!!というような顔をした。
「え!?俺のこと覚えていないの?」
「ええ。新手のナンパですか?」
「えー。ひどいなあ。やっぱりサイラスのことしか覚えていないのか」
「あ、ああああああああ!!!!!!!」
その優男の正体を思い出した!!
「えっと、サイラスの右腕の、えっと、えっと、誰だったっけ?名前忘れた!!あ、思い出した!!机!!デスク!!」
「いいや違うから。デクス!!」
「ああ。久しぶり〜。元気だった?」
「ああ。おかげさまで」
「へえ。本当にあっちの世界の人たちも転生してるんだ」
「変わらないね、舞華ちゃんも。俺、結構こっちでいろんな子と付き合ってきたけど、舞華ちゃんみたいな綺麗な子って、いなかったよ?ていうか、この会社、美人多すぎじゃない?大丈夫?セクハラとか」
「全然大丈夫。何?その心配。っていうか、涼にあった?」
「うん、結構前に」
「そうなんだ」
「っていうか、涼、って呼んでるんだね。舞華ちゃん」
「うん。そうだけど?」
「うん、って。あの頃みたいに、ソワソワ、バタバタしている舞華ちゃんを見に来たのに」
「あれは、一応私だけど、今の“私“じゃないから」
「まあ、そうだね」
なんのために来たの?こいつ。わざわざここまで。
「で、なんのために来たの?」
「なんのためって、俺が会いたいから来たんだよ?」
「はあ?」
「いや。涼くん、俺が舞華ちゃんに会ったよって言ったら、どんな反応するのかなって」
「いや、普通でしょ。今更」
「ほら、前はやばかったでしょ。嫉妬で狂って、城を崩壊させそうになったじゃん」
「まあね」
すいません、と店員さんを呼んで、コーヒーを頼む。
「本当にさ。びっくりしたよ。少年、青年漫画とか読んでると、君たちのような関係の話、全く出てこないから。逆に、討伐する側と、討伐される側じゃん?」
「本当に、ね」
注文したコーヒーが届いたので、まだあったかくて湯気が立っているコーヒーを、口に運ぶ。うん。涼が入れたコーヒーの方が美味しい。
ここで一応、私たちのことを話しておいた方がいいのだろうか。
私と涼は、普通の勇者と魔王ではない。私たちは元々、“夫婦”だったのだ。ただ、色々あって、最終的に、私たちは、勇者と、魔王になってしまった。
まあ、その間に何があったのか、とかは、また今度ね!
「まあいいや。舞華ちゃんに会えたし。俺は満足!!じゃあ、LINO教えて!!」
「え?なんで?」
「なんで?って。グループLINO作りたいじゃん。“前世組“って」
「私抜きでやりなよ」
「ほうら。もしかしたら、“あいつ“も、転生してるかもよ。その時、情報網が広い方がいいでしょう?」
「・・・・・・。まあ、そうね。いいわよ。で、デクスのことはなんて呼べばいい?颯?樹里?どっちでも呼べそうだけど」
「じゃあ、樹里で!!」
「わかった。じゃあね。樹里。あと、気軽に訪ねてこないで。私にだって仕事はあるんだから」
「はーい」
樹里とはLINOを交換して別れた。
「で、舞華。あの男性とはどのような関係で?」
樹里が帰った瞬間、佳奈が後ろから飛びついてきた。
「佳奈。そんな関係じゃないよ。ただの、え。なんだろう。昔の仲間?」
「え。何それ。っていうか、約束覚えているよね?スーパーイケメン保育士に会わせるって」
「約束したっけ?」
「したわよ」
「いや、してな・・・・・・」
「しました」
うーん。会ってくれるかな?涼。そういうの嫌いそうだけど。
「わかった。じゃあ、聞いてみるわ」
「ありがとう!!」
「結果が悪くても怒らないでね?」
「いいのいいの。私の好みじゃないかもしれないし」
つくづく思う。女子関係って、難しいなって。
◇◆◇
「拓海〜!!迎えに来たよ〜!」
他の仕事も相待って、拓海を迎えに行くのが少し遅くなってしまった。
「おお。遅かったな」
「悪いわね」
涼は、当たり前のように、出てきて、遅かったな、という。私も、もう決まり文句のように、悪いわね、とか、悪かったわね、とか憎まれ口を叩く。
「まいちゃん、おちゅかれ」
「拓海も、お疲れ。遅くなってごめんね」
「いいよいいよ」
うちの子。なんて素直でいい子なの!!いいこいいこしてあげる〜!!
拓海の頭を、わしゃわしゃと撫でまくる。拓海はくすぐったいのか、身を捩らせているけれど。涼は何?こいつ。親ばかか?みたいな顔で見てくる。はんっ。わかんないでしょうね。あんたには。
「今日も変わりなかったぞ〜」
「そう。ならよかった。てか、あんた。私たちに対して、適当すぎない?他の家族には、ちゃんと、何々があって、何々をしていて、みたいな、ちゃんと説明しているのに」
「まあな。でも、何かあったら、LINOできるだろう?」
「まあ、そうだけど」
「じゃ、そう言うことで」
それだけ言って、さっさと部屋に戻っていってしまった。
全く。なんなのよ。
つんつんと服を引っ張られ、下を向くと、拓海が眠そうに、はやくかえろ、とあくびをしながら言った。
「あ、はい。すいません。帰りましょう」
◇◆◇
家に帰り、拓海を風呂に入れ、大急ぎでご飯を作って、毎夜恒例の読み聞かせをして、拓海を寝かしつける。ここまでが、夜の私のルーティーン。あっという間に夜の9時過ぎになる。そして、私は自由時間を過ごせる!!!
冷蔵庫を開けて、週末の金曜日にだけ飲むことができるビールを出す。プルタブを開けると、プシュッといい音がする。よし、飲もう!!1週間お疲れ!!私!!
グイッと飲もうとした瞬間。
ピコンピコンピコンピコンピコン
ビクッ。急に通知音がめちゃくちゃ鳴り始めた。
全く。誰だよ。こんな時間に。
ロック画面を見ると、そこには、涼からのびっくりするほどのLINOが来ていた。
【おい】
【見てるか?】
【聞いてるか?】
【未読スルーするんじゃねえ】
【早くスマホ見るべし】
【俺、もう寝るぞ】
【ラーメン食いてえ】
【早くしろよ】
【ぷんぷん怒っているスタンプ】
・・・・・・・・・・・・などなど
通知は、99件くらい来ていた。なんなの?マジでなんなの?
次の瞬間、ブーブーと電話がかかってきた。着信先は、もちろん涼。
「ねえ。なんなの?何か用?」
『LINO見るのの遅えよ』
「仕方ないじゃない。拓海を寝かしつけていたんだから」
『それより、お前、今日、樹里に会ったんだってな』
「ああ、樹里?会ったけど、何か?」
あれ?なんか、こいつ、キレてないか?
『何か言われたか?』
「あー。LINO教えてって言われたから、教えたくらい?」
『なんで教えた?』
「ほら、“あいつ”も転生してるかもでしょ?だから、情報網は広い方がいいし、一応弁護士だから、何かあったときに便利かなーって」
『・・・・・・そうか』
なんなのよ。全く。
『ああ、そうだ。お前、明日、休みか?』
「休みだけど?一応」
『用事はあるか?』
「用事?そうねえ。あっ!!そうそう。近くで夏祭りがあるらしいから、そこに拓海を連れて行こうかな、と」
『そうか。何時からだ?』
「えーっと、確か、6時くらいから。家から歩いて行けるから、混まなくて済むな、と思って』
なんか、機嫌が良くなった気が・・・・・・。
『そうか。なら、それ、俺も行くから』
「はっ!?」
『ってことだから、じゃあな。おやすみ』
「ちょっと、あんた__」
ちょっと、あんた、仕事は!?と聞く間もなく、ブチっと電話を切りやがった。
全く。なんなのよ。男心は難しいわ。本当に。
「もう!!男は勝手なんだから!!」
涼への当てつけのように、グイッとビールを喉に流し込んだ。
前世倒した魔王が“スーパーイケメン保育士”になっていた件について。 うさぎ咲 @usagisaki
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