5話 イケメン?いや、腹黒イケメンです!!

 翌日。拓海は、幼稚園がものすごく楽しかったようで、ランラランとスキップしながら幼稚園に向かった。

 その間。ずっと拓海は、りょうせんせいがね、りょうせんせいがね、と繰り返していた。やはり、保育の腕はすごいのだろうか。でも、魔王だよ?前世。今の漫画とかで例えれば、鍋で人間を煮てるんだよ?そんなことしてないけど。


 「こんにちは〜」

 「こんちはー」

 門をくぐると、昨日はおどおどしていた拓海が、一目散に駆け出していく。

 タイミングよく、涼が出てきて、駆け込んできた拓海を受け止める。


 「拓海くん、おはようございます」

 え?昨日拓海のこと呼び捨てだったけど、本人の前ではさん付けなのね。

 「りょうせんせい、おはよございます!」

 「おはよう、拓海。舞華も、おはよう」

 「おはよう。じゃあ、拓海をよろしく」

 「わかった。いってらっしゃい」

 拓海を抱きしめながら、手を振ってくる涼。別にわざわざ、と思いながらも、手を振り返してしまう私。



 「ああ、もう!!」

 前世まえと同じ間違いはしないって、何度も誓ったじゃない!!と思いながら、全速力で駆け出した。お陰で、会社に着いた頃は、酸欠状態だった。




 ◇◆◇




 「で〜、舞華、どうだったのよ!?スーパーイケメン保育士は」

 デスクで仕事をしていたら、佳奈が話しかけてきた。

 「ん?うーんと、イケメンだったわよ」

 「本当に!?彼女はいた?」

 「そんなこと聞くわけな____」

 「な?」

 あ、そういえば、彼女はいないとか言っていたような、いなかったような。

 「いないとか言っていたような?」

 「え!?本当に?いーなー。私も取材行きたかったな。あ、連絡先とか知ってる?」

 「は、知っているわけ____」

 あれ?そういえば、帰る直前に、連絡先のメモもらったような?確か、スマホケースに挟んでいたはず・・・・・・。

 「あった」

 「え!?これ?あ、今から電話しよう」

 「ちょっと!!今仕事中でしょう!?」

 「えー。ていうか、何で舞華、そんなに親しいの?」

 「え。それは、昔!昔!!家が近かったの!!そう。ご近所さんだったのよ」

 「ふーん」

 意味深なフーンね。全く。


 「言っておきますけど、何もやましいことはありませんからね」

 「何も言っていないでしょう?私にもイケメンの彼氏欲しいなあって思っただけだから」

 「イケメンじゃないから。腹黒イケメンだから」

 「え?何の話?」

 「え?こっちの話」

 そう。佳奈は知らないのだ。あいつの腹黒さを!!まだ、黙っていれば、モデルにもなれるし、逆ナンパも絶えないだろう。ただ、喋ってみればわかる。あいつは、腹黒イケメンだ!!


 

 「まあ、でも、元気になってよかったよ」

 佳奈が、フッと笑って、そう言った。

 ああ。そうか、佳奈は、心配してくれていたのか。お姉ちゃんを亡くしてしまった私のことを。

 「ありがとね。佳奈」

 「いいよいいよ〜。ただ、今度そのイケメンを紹介して連れてきてね。合コンセッティングしとくから」

 「うーん。難しいかな。私、今、拓海いるから」

 「そっか。休みの日とかでも無理?」

 「うん。拓海が、保育園がいいっていうならいいけど。りょ、鬼桜先生にも仕事があるだろうから」

 「そっか。大変だね」

 「そうでもないよ。私の料理、美味しいって食べてくれるから。今まで1人だった分、感想がもらえるのはとても嬉しい」

 「私もまた食べに行きたいなー。舞華の料理おいしいもん。特にパスタが絶品!!」

 「そりゃ、どうも」

 2人で顔を見合わせて笑う。女友達がいるって、いいな。

 私、前世では勇者業だけだったから。仲の良い女の子もたまにいたけど、ただ単に仲間だったから。それは、“友達“じゃない。


 「本当にありがとう。佳奈がいてくれてよかった」

 「何よー。友達として当たり前でしょう?」

 

 その一言で、私の心は、温かくなれるんだよ。



 

 ◇◆◇

 



 「りょうせんせい、りょうせんせい、これよんで?」

 「拓海くん、他の本もあるよ?」

 拓海は、いやいや、というように首を振って、これがいい、と差し出す。


 拓海は、舞華の姉の子供だけあって、舞華に似ている。プラス、可愛い。めちゃくちゃ可愛い。おそらく、将来はイケメンになるだろうな。俺に似て。


 拓海がいつも持ってくる本は、決まって、『桃太郎』。なぜか桃太郎がものすごく気に入ってしまったようだ。


 「むかーしむかし、あるところに、おじいさんとお婆さんがいました・・・・・・・・・・」

 

 「・・・・・・・・・・だとさ。おしまい」

 そして、読み終わったころには、すでに寝ている。その寝顔がまた、可愛い。タオルケットをかけて、と。よし、俺も寝たい!!と思っても、


 「りょうせんせい!!こっちヘルプ!!」

 「はい」


 園にいる間は、俺に休みはほぼない。まあ仕方ないな。スーパーイケメン保育士なんだから。


 生意気なガキンチョもいるが、心を開いてくれるようになってくれることが、1番のやりがい。って、舞華の取材に答えたっけな。


 

 「よし、じゃあ、次は、りょうせんせいが鬼だぞ?みんなにげろ〜!!」 

 保育士って、結構体力使うんだよな。外で子供達と遊んだり、お出かけしたり、虫取り、草取り、便器掃除、ずーっと動き回っているから、おばあちゃん望美先生とか、大変だったんだろうな。まあ、前世魔王にとっては、屁でもないけど。


 保育士って、ブラックだとか、休日が取りにくいとか言われるけど、この保育園は、バリバリホワイト。昼休みもあるし。保育園だけど、子供を預かれるのは7時まで。7時以外はもうNG。土日もあるけど、土日休日のシフトを入れるのは、1ヶ月につき5回まで。1人の負担を抑えるためだ。それでも、100人近くある園児を見るのに、保育士は30人程度。1人3人、って感じ。仕事が大変なご家族のためにも、費用とかは安くしているのに、給料は結構いい。なぜなら、望美さんは元々、世界的デザイナーとして名を轟かせていたからだ。『WISH FIT』と聞いて、知らない人はいないというほどに。最初の頃は、望美さんの名前に釣られて、入園する人もいたが、今では、本当にうちに入園したいと思っている人たちばかりだ。成長したな、と思っている。



 お、もう1時。

 「あ。じゃあ、休みもらいます」

 「はーい」


 12時、1時、2時、と昼休みは3回に分けてある。休みは、クラスによって違ったりする。


 ブーブー

 スマホの電源を入れると、びっくりするほどのメッセージが届いていた。

 

 【ねえ、勇者にあったって本当?】

 【どこで会ったの?】

 【美人だった?】

 【え、もしかして付き合っていたり・・・?】

 【その他50件】

 

 全く。こんなにメール打ってくるやつは、他にいない。樹里いつきだな。


 颯樹里はやていつき。こいつも、俺たちと同じ転生者。元々は、魔王の右腕だったやつだ。名前は、確か、デクスといった。頭もキレるし、強い。が、女に目がなく、舞華カイアにまで手を出そうとしやがったやつだ。俺とは幼馴染で、高校までずっと一緒だった。確か今は、弁護士をしているとか言っていたな。女が好きそうな甘いマスクで、髪は茶色で、目尻は垂れている。だけど背は178センチと高く、ハーバート大学出身ときた高学歴。多分、ツテで聞いたんだろうな。舞華が、勇者だったということを。


 【えー。会いたい会いたい!!今度連れてきてよ!!】


 【誰が連れて行くか。ばーか】


 【じゃあいいもん。勇者の名前、確か、七瀬舞華ちゃんだったよね?】


 【なんで知ってる?】


 【言っておきますけど、司法試験一発合格で、T大首席入学にして、首席卒業の天才ですから?たった1人の女の子くらい調べるのよゆーなの】

 

 【変態だな】


 【そういうことじゃなくて!!まあいいや。じゃあ、は俺がとっても文句言わないよね?】


 「ふっ」

 誰が、お前なんかに舞華を渡すか。と思いながら、スマホの電源を切る。


 やってみろよ。お前にできるものならな。

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