3話 これは・・・・・・運命の再会!?

 どれくらい固まっていただろうか。

 ようやく我に帰った時は、園長先生にドン引きされてしまっていた。


 「え、えーっと、お二人はお知り合いですか?」

 私が、断じて違います、というより先に、サイラスが口を開いた。

 「ええ。そうなんですよ。むかーし一緒に住んでいた頃があって。もうこれは、運命の再会でしょうねえ」

 「あら。そうなんですか」

 「ちょっと!!なに言ってんのよ!!」

 絶対に勘違いされた。ああ。もう。

 「ん?俺何か間違ったこと言ったか?」

 「・・・・・・・・・・っ」

 

 ああ、もういいや、と開き直った私。

 「御無礼しました。S出版社の七瀬舞華と申します」

 営業スマイルで名刺を差し出すと、サイラスはそれを面白そうに受け取る。ムカつく。めっちゃムカつく。

 「保育士の、鬼桜涼きざくらりょうと言います。今日はよろしくお願いします」


 手を出してきたので、私も手を出し、握手、という名の握りあいを交わす。私、これでも握力両手で70キロありますので。握力測るやつ壊した過去があるので。

 でも、さすが前世魔王。痛いのを必死に我慢している・・・・・・気がする。


 へえ。しかし、鬼桜涼、ねえ。鬼に桜に涼しい、ねえ。私は手を握られながら、彼の顔をよく観察する。

 黒髪に、スッと通った鼻筋。目は吸い込まれそうなほど綺麗で、まつ毛はマッチ棒が4本くらい乗るんじゃないかな、と思うほど長い。間違いなくモテる顔だ。イケメンだな。

 前世でもイケメンだったが、こりゃ女の子に不自由していませんって感じ?


 っていうか、そろそろ手を離せよ。

 一向に手を離さない彼にをそろそろ痺れを切らした私。全体重をかけて彼のつま先を踏んづけてやった。彼はビクッと体を揺らして手を離す。

 

 「お、お前なあ。足が潰れるかと思った」

 「あいにく、人の足を潰すような力は持ち合わせてございません」

 「・・・・・・っ。変わらねえなあ」

 

 懐かしい、愛おしい、というような顔で微笑んだ。ちょっとドキッとしちゃったけど、まあ、イケメンに微笑まれてドキッとしない女子なんていないもんね。うん。と自分に言い聞かせる。


 

 「では、取材に入らせていただきます。録音をさせていただきますが、かまいませんか?」

 一応、私は仕事中ですので。


 主に聞くことは二つ。どうして保育士になったのか。もう一つは、子供のあやしかたのコツ。って感じかな。

 

 「なぜ、鬼桜先生は保育士になられたのでしょうか。そのルックスなら、モデルや、その他の職業にも簡単に就けたのだと思いますが」 

 「保育士になった理由?単純に子供が好きだからだけど?」

 え?

 「なに?その意外そうって顔」

 「すいません。顔に出てしまいました」

 「いや。そこ謝る所じゃないだろ」

 「そういうものですか?まあ、それはいいとして、なぜ子供が好きなのですか?」

 「好き、というより、守りたい、という気持ちの方が強いかなあ」

 「守る、とは?」

 「ん?ほら、世界では、幼い時に死んでしまう子供達がたくさんいるだろう?子供の時にぐれてしまって、人生を踏み外す子供もいるかもだろ?だから、俺は、ちゃんと真っ直ぐに育つような手伝い?というか、選択肢?を今のうちに増やしておきたいな、みたいな?」

 「疑問形が多いですね」

 「・・・・・・悪かったな」

  

 彼が言ったことが、わかる。気がする。


 私たちが生きていた世界では、子供が無事に成長して大人になるだなんて、20%くらいの確率だった。それくらい荒れていて、荒んだ世界だった。貴族の子供だけが生き残り、平民、町民の子供たちは、何百人、何千人の子供が、飢餓や感染病で亡くなって行ったことか。仮に、運よく生き残っても、幼少期の時点で貴族への不満が増幅し、貴族に反抗し、命を落とす人だっていた。私は、いや、は、それを変えようと、戦っていた。富、名声?そんなもの、いらなかった。ただ、ただ。子供たちが成長していく未来を守りたいだけだった。


 「あとは・・・・・・」

 「あと、とは?」

 「俺、、両親がいなかったんだよ。いや、違うな。4歳の時まではいたんだ。俺からいうのもなんだけど、まあ、ダメな親で。育児はほったらかしでギャンブル三昧ざんまい。しまいには借金背負って、夜逃げしたんだよ。俺をおいて」

 「・・・・・・・・・・」

 「で、夜逃げする前に、両親から、私たちが帰ってくるまで絶対に外に出てはいけない、って言われたんだ。まあ、その時はまだ素直だったから?律儀にそれを守っていたんだけど、お腹は空くけど食べ物はなにもないし、暗いし、で。でも、近所の人が見つけてくれて、警察の人が保護してくれたんだけど。栄養失調で。その後は、母方の祖父母が引き取ってくれて。そこで中3まで過ごした。じいちゃんが、この太陽保育園の前園長で。俺、その時保育園に行けなかったから、じいちゃんばあちゃんがここに通わせてくれた。ここが、とても居心地が良くて。で、高校に上がった時に、2人とも事故で亡くなって。今の望美さんは、ばあちゃんの妹で、姉妹で保育士だったから、ばあちゃんたち亡くなった後にここを継いで。俺も、ここに居ていいよって言ってくれて。でも、流石に迷惑だったから、一人暮らし始めて。大学は、ばあちゃんたちが貯めておいてくれていた貯金があったから、それを使って。」

 「・・・・・・そう、ですか」

 「だから、やっぱり、恩返しがしたかったんだよね。ここに。俺みたいに居場所がなかった子とかがいたら、ここを居場所にしてあげてたい、みたいな。綺麗事かもしれないけど。お前、綺麗事嫌いだったろ?」

 「・・・・・・今は、そこまで・・・・・・ない」

 「そっか」

 ふっと笑う彼を見るのが、辛くなったから、目を逸らした。



 世界は、なんて、残酷なんだろう。どうして、彼にだけ、こんなにも、冷たいのだろう。



 「それに、お前が言ったように、このルックスだし?お母様方からも大人気で?子供からも好かれて?もうハーレム状態だよ」

 茶化したように笑う。彼が茶化すときは、大体、話を逸らしたいときだ。


 「園長先生は、このことを知っていたんですか?」

 「ええ。知っていました。高校を卒業して、4年間、一度も会っていなかったのに、急にここへ戻ってきて、ここ、あきあるよね?と聞いてきたんですよ。あきってなんだ?と思いましたが、先生の空きだと分かった時は、もうびっくりしました。俺、資格取ったからと言って。でも、面接にも通って、本当にここの先生になったときは、嬉しいのと、悲しいのと、びっくりしたのとで、複雑な気持ちになったのを覚えています」

 「そう、ですか」


 思っていたよりも、重たい、悲しい話だった。

 でも、彼を見た時、そんな話になるだろうな、と思っていた自分に、嫌悪感を覚えた。

 魔王であった彼が、子供と接する職業につくだなんて、そんな理由でもないと、絶対につかないだろうと思ったからだ。

 


 「では、質問を変えますね。鬼桜先生は、ちまたではスーパーイケメン保育士として名が轟いていますが、このことについてはどう思いますか?」

 「まあ、順当に考えれば、仕方ないですよねえ。だって、このルックスに、子供をあやすのも超絶にうまい。運動もできるし、手先も器用ときた。もう俺なんて、保育士の申し子と言ってもいいくらい。逆に、俺のこと知らない人なんて、いないんじゃない?」

 じっとした目で見つめると、彼は、冗談だ、といった。


 「スーパーイケメン保育士として、取材が来てる、と聞いた時に、え、俺、スーパーイケメン保育士だなんてよばれてるんだ、って知ったけど。お母さん方に、そう呼ばれて茶化されることはあったけど、冗談だと思っていたからな」

 「そうなんですか。そんなスーパーイケメン保育士として名高い鬼桜先生ですが、子供のあやし方、にコツなどはありますか?」

 「コツってよりかは、子供と同じ目線で物事を見てあげることだな。何事にも。おしゃべりをするときも、上からじゃなくて、膝をついて、同じ目線で。そのくらいじゃない?」

 「えっ。それだけ?」

 「うん。後は、ちゃんと話を聞いてあげるくらい?一人一人個性が違うから。話を聞いたり、普段の行動をちゃんと見たり、自分の価値観を押し付けないことも大事だな。というか、俺が、大事にしていること。認めてあげて、褒めて、伸ばすようにしているな」

 「そうですか。すごいですね。私も参考にさせてもらいます」

 「どうぞ。参考にさせてあげましょう」

 いたずらっ子のような顔をして、笑った。



 そろそろ休憩が終わる時間だそうで、私は取材を終わらせることにした。

 彼は、私を外まで送ってくれた。

 「鬼桜先生。今日は、ありがとうございました。また、お聞きしたいことがあるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」

 「はーい。あとさ、鬼桜先生っていうのやめてくれない?涼って呼べよ」

 「いやよ。だって、取材対象者だもの」

 「つれないな。さすが勇者様?」

 「もう一回踏んでやろうか。足。今度は骨が割れるくらい」

 「遠慮するわ。なら・・・・・・」

 彼は、ポケットからメモ帳を取り出して、何か書き始めた。

 「もう、帰るから。拓海をよろしくね」


 振り向いて、歩き出そうとしたとき、ぐっと肩を掴まれて、頭にトンっと何かを押し渡された。さっき、彼が書いていたメモ用紙だ。

 番号が書いてある。

 「それ、俺のスマホの番号。何かあったら連絡しろよ?これで他人じゃなくなったな。電話番号まで知ってんだから」

 「ちょっ」

 「じゃあな。舞華」

 最後にしてやったり、という顔で笑った彼、いや、涼に、私は一瞬で釘付けにされてしまった。

 

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