第2話 スーパーイケメン保育士の正体

 「拓海〜!!これに着替えて〜!!保育園行くよ〜!!」

 「まらねむい〜」

 「はいはいそんなこと言わないで」

 

 拓海を引き取って1週間。その間保育園の手続きだのなんだのかんだの色々忙しかったが、大体終わり、これからまた違った忙しい日々が始まろうとしている。


 「行ってきまーす」

 「いってます」

 拓海と手を繋いで家を出る。


 「どうしたの?」

 「ともらち、できるかなあ」

 「大丈夫大丈夫、おっきな声で、おはよう!っていてみ?絶対できるから!!」

 朝から元気がなかったのは、まだ母親お姉ちゃんを失ったショックか、保育園が怖いか心配だったが、友達ができるか怖いだなんて、何て可愛いんだろう。うちの甥っ子は。


 


 10分ほど歩いた先にある、『太陽保育園』。玄関は大きな太陽が笑っている。

 

 拓海を引き取って、まず最初に始めたことは、保育園探し。どうしても私は仕事をしなければならないし、都合上遅くなったりすることもあるから、保育園を早めに見つけておきたかった。そして、なんとたった1日で見つかり、2日目で入園に至ったのだった。

 立派な建物で、下手をすれば、本当に豪邸。そう、豪邸。園庭も広くて、中もきれい。本当に保育園?って疑っちゃうほど。

 給食も美味しく、設備も完璧。行事もたくさんやっていて、延長保育も充実!!まさに・・・・・・。そう!!まさに、えーっと、そう!!スーパー保育園なのだ!!(ドヤ顔)


 「おはようございまーす!」

 「あ、おはようございます。七瀬さん、拓海くん」

 出てきたのは、気の良さそうな優しそうなおばあさん。

 なぜか拓海は私の足を掴んで離さない。人見知りなのかしら。私にはすぐくっついてきたのに。

 「ほら、拓海。ご挨拶は?」

 「おはよございます」

 「はい。おはようございます。私は園長先生の、園田望美そのだのぞみです」

 「たくみです」

 「あ、すいません。そろそろ時間なので」

 「ああ、そうですね。じゃあ、拓海くん、行ってらっしゃいしようか」

 

 プルプルと首を振る拓海。まだ私の足を掴んで離さない。

 「はーい。拓海」

 私は怪力で拓実を抱き上げる。

 前世の勇者並みの腕力と体力は今でも持ち合わせている。

 「行ってくるね」

 「いてらっしゃい」

 「行ってきます。よろしくお願いします」

 「はい。安心してください。うちにはスーパーマンがいますから」

 「???じゃ、お願いします」

 最後のスーパーマンの意味はよくわからなかったが、まあ、安心した。

 つぶらな瞳で私をじっと見つめている拓海の視線を背中に感じながら。



 ◇◆◇



 「七瀬さん」

 「舞華!!」

 「編集長、佳奈!!ご迷惑をおかけしました」

 「いいえ。いいのよ。大丈夫だった?」

 「はい。おかげさまで。ですが、甥を引き取る事になったので、また何かご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」

 「あら。そうなの。なら大丈夫よ。うちは結構ホワイトだから」

 「あははは。知っています」

 

 私は、この職場の雰囲気が大好きだ。

 

 前世は勇者で、それはまたチヤホヤされたけど、一番褒めてもらいたかった人に褒めてもらえなかったから。


 「ねえ、七瀬さん。こないだの取材の資料、読んだ?」

 「ええ。一通り。ですが、顔写真がないなんて、びっくりしました。イケメンって噂なのに」

 「そう!!それで初めてうちで写真載せOKになったの!!」

 「うわあ。じゃあ、目玉ですね。いや、違う。財布ですね」

 「まあ、そう言うことね。それはそれで、七瀬さん。今日から取材行ける?」

 「え。今日ですか?」

 「ええ。本当にごめんね。ホワイト企業とか言っておきながら、これじゃブラックね」

 「いえ。行けますが、どうして今日に?」

 「それがね、今回のスーパーイケメン保育士さんが、今日都合がついたらしくて。急遽きゅうきょ

 「わかりました」

 「取材先は、太陽保育園。知ってる?」

 「・・・・・・はい?」

 太陽保育園?

 「そう。彼が勤めているのが、“太陽保育園”なのよ」

 なぜかわからないけど、顔から血の気が引いていったのがわかる。

 「どうしたの?」

 「甥を、甥を預けている保育園です」


 

 ななななななん、なんってことに!!朝あんなに感動的?な別れ方をしたと言うのに!?


 「甥っ子さんがいるのね!!なら安心ね!!」

 「えー。私も行きたかったな」

 佳奈。変わってあげよっか?

 さすがに拓海を預けている保育園に取材は、なかなかに厳しい!!って言うか辛い!!私が!!


 いや、頑張れ、頑張れ、私!!

 「行ってきます!!」

 「ありがとう!!よろしくお願いします」

 「はい」

 「あ、舞華。本当にイケメンだったら知り合いになってきてね〜!私が“釣る“から!!」

 ああ。美人って恐ろしい。



 

 ◇◆◇



 はい。やってまいりました。本日2度目のいや、感動的な別れの瞬間から2時間後の、太陽保育園に!!イエーイ!!パチパチパチ。

 今は、保護者ではなく、部外者なので、チャイムを押してから入る。


 ピンポーン


 「はい」

 「こんにちは。S出版社の、七瀬と申します」

 「え!七瀬さん?」

 「はい」

 「ああ、どうぞどうぞ」

 「失礼致します」


 話していくたびに、語尾がどんどん小さくなっていったのは、気のせいだろう。うん、気のせい気のせい。


 応接間のようなところに案内され、園長先生が入れてくれたお茶を飲みながら、イケメンって、どんなイケメンなんだろうと場違いなことを考えている私がいる。

 前世では、まあ、会う人会う人全員美形だったから、イケメンへの耐性はついている。前世では、『美形耐性』というスキルまで手に入れたほどに。


 「まさか、七瀬さんだったなんて、世の中狭いですね」

 「本当に、そうですね」

 「すいませんね。うちのスーパーマンは、マイペースで」

 「いえいえ。あ、あの、拓海は元気でしょうか?」

 「ええ。お友達もできたようで、楽しく遊んでいますよ」

 「なら良かったです」


 園長先生と色々な話をしていたところで、ガチャリ、とドアが開く音がした。

 「あらあら。うちのスーパーマンのお出ましよ。ノックをせずに入ってくるなんて、彼だけだもの」

 

 ドアが開いて、入ってきたその人は・・・・・・。

 

 「・・・・・・魔王、サイラス?」

 「・・・・・・勇者、カイラ?」

 「「あああああああああーーーーー!!!!!!!」」

 思わず、立ち上がって、相手を指差したまま固まる私たち。

 

 そう。入ってきた彼、スーパーイケメン保育士とは、私の因縁の相手、魔王・サイラスだった。

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