第6話 インタビュー(後)
「自分の話をし過ぎてしまったわ。貴方の経歴に話を戻しましょう。エチオピアの後はフィンランドで負傷者輸送用の飛行機を操縦したの?」
「いえ、当時の僕は今より落ち着きがなかったとでも言いましょうか。ソ連に一発ぶち……失礼、一泡吹かせてやりたかったんです。そこで、フィンランドも爆撃機を持つべきだと提案しました」
伯爵の説明では、先ず彼は手本を示そうと自分で一機目を調達した。持ち前の機体に関する知識を活かし、旅客機から爆撃機を作り上げたらしい。結局は、彼の提案は身を結ぶことはなかったという。
「ヨーロッパ人なら凡そ誰しもが体感したことですが、空爆というのは凄絶なものでした。僕はオランダにいた時にも、それを改めて認識しました。信じられないかもしれませんが、どちらの陣営にも参戦しないと宣言したスウェーデンにあってすら、空襲は起きました。誤爆だとは言われていますが……」
空爆なら、私達も相当なものを味わったはずだ。私達の国には油田があり、それはドイツ軍を一人の人間に例えるなら全身の血管を巡る血のようなものだった。彼らは血を啜る化け物のようにルーマニアの油田地帯に執着し、連合軍もそれを知っていたから精油工場を破壊しようと躍起になって爆撃機部隊を送り込んできた。
「連合国に怒りを感じた?」
私は俳優との約束の為に、敢えて急に尋ねてみた。伯爵は肩を竦めて答えた。
「当然、爆撃には腹が立ちますよ。ただ、それ以外の殆どの場合には連合国は正しいと考えていました。僕には特別な事情があったから、その信条は中々他人には理解されませんでしたが……」
これで伯爵は、かなり明確にナチを支持していないと宣言したことになる。あとは俳優がこの発言をどう考えるかだ。
「そう、あの人の所為で僕は中々に苦労をさせられた……友人が離れていくのは辛いものでした」
ここで伯爵は、口を滑らせてしまった話があるかのような表情を浮かべた。これは注意深く聞かなければいけないかもしれない。私はとりあえず黙っていることにした。
「女優さんはルーマニア出身でしたね。ドイツ人にもいい人はいると感じました?」
伯爵は言葉を選んでいるようだった。少し彼の発言の意味を考えて、私がナチ支持者かどうかを知りたがっているのだと気づいた。
「ドイツ兵と付き合うルーマニア人女性はいたわ。多分ヨーロッパのどこでもそうだったんじゃないかしら。でも、少なくとも彼らが負け始めてからは、大抵の国民は嫌な顔をしていたわ。そもそもルーマニア人はね、建国以来フランスが大好きだったの」
ここまで話して、私は伯爵の顔を見た。彼はナチス支持者ではないという自らの主張どおり、不服そうな様子ではない。
「私自身について言えば、彼らとは関わりたくなかった。もっと素敵な恋人がいたもの。私の夫もパイロットだったのよ。夫と言っても、今は別居しているけれどね。ちょうど貴方みたいに、曲芸飛行が大好きだった。元々旅客機を操縦してたけど、戦争が始まってから
伯爵はここで驚きの声を上げた。
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