第10話 結末
俳優はあの後、伯爵への疑いを解き、謝罪に行ったらしい。噂は噂に過ぎなかったというのが彼の結論だった。
国王に婚姻の許可まで得ていたにも関わらず、彼と伯爵令嬢との婚約は破棄になった。やはり自分の仕事を離れがたく、彼女の夫は荷が重いという理由だった。
やがて撮影が全て終わり、私はパリに帰った。今回も楽しい撮影だったけれど、随分と寒かった。特に気温マイナス30度のテントの中で涙を流すシーンについては、当分の間やりたくない。
そんなことを考えながら自分の家のポストを覗くと、公爵からの手紙が入っていた。同封されている写真を見たところ、スペインで彼は同郷の亡命者達と仲良くやっているようだ。亡命直後の、行き場を失った不安が僅かに滲むような姿とは確かに違う。手紙には、飛行機さえあれば幾らでも希望を持てるのだと書いている。弱い部分を表に出さないことを美徳だと考えている彼の事だから、実際のところはわからないけれど。
公爵の手紙には、私の出演した映画の感想もあった。数年間を共に過ごしたけれど、見たことの無い表情ばかりで実に驚かされると書いている。けれど、そんなことは当たり前だ。全ては演技なのだから。
尤も、彼と一緒にいた頃も確かにお芝居じみてはいた。公爵が御伽話の王子様で、私が惨めな娘だった。だけど、それは体制の下で押し付けられた役割であり、望んでそうなったわけではない。
次も楽しみに待っているよ。公爵の手紙はそう締め括られていた。彼に言われるまでもなく、私は新しい舞台を探し続けなければいけない。シンデレラの劇はとっくに幕を閉じている。
インタビュー・ウィズ・ザ・カウント -俳優と伯爵- ミド @UR-30351ns-Ws
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