最終話 未来へ
今年の師走は散々であったと晴は思い返す。
福の神騒動、タカマガハラの介入、犬神の侵入。
兎に角、大変疲れた日々だった。
溜息交じりに空を仰げば澄んだ青が広がっていた。
現在晴は近況報告も兼ねて、本日の『御神送り』の後、新宿にある彼岸本家に来ていた。早くには行こうと思っていたのだが、十二月は“師走”の字の通り走り回るくらい忙しなく、三月になってやっと落ち着いたのだ。
宗純と会えたのは真昼の月が浮かぶ正午頃だった。近況は福の神の家出を始め、大国主の発言と犬神の侵入、烽火九尾の一時的解放と、鳴のこと。
結局のところ曳舟は打出の小槌の中で眠りこけたまま犬神に攫われたらしい。大国主の発言に関しては謎が残るものの、真実は分からず仕舞いだ。
全てを聞き終えた宗純はただ一言「そうか」と静かに言葉を落としたのだった。
宗純への報告を終えた晴が彼岸屋へ戻ろうと部屋から廊下に出ると、目の前に女子高生が二人並んで立っていた。
「あ、晴兄! 久しぶり~」
「お久しぶりです、晴さん」
「お前ら……
そうだよ、と二人がはにかむ。彼女たちは鳴の双子の妹だった。
「見ないうちにでかくなったな」
「そりゃあ成長期だかんね。あ、そうだ晴兄。これ、お兄に渡しておいてよ」
「……何だこりゃ」
朝が晴に手渡したのは姉妹の写ったチェキだった。何故かどちらとも真顔で写っている。
「私たちの成長をお兄にあげるんだよ」と朝。
「本当は直接会いたいのですが、あまり
姉妹は分かり易く気を落とした。やはり兄妹ということもあって、その表情は鳴によく似ていた。
「鳴に渡しておくよ。他に伝えておくことはあるか?」
「あ、うん! 今年お兄たちと同じ大学に入るよ!」
「そうなのか。夕もか?」
「はい。お陰様で」
「じゃあ、入学祝い何か考えないとな」
「やった!」
晴は朝と夕の頭をぐりぐりと気の済むまで撫で繰り回した。忘れないでね、と背中越しに朝の声を受けながら、晴は彼岸本家の玄関を後にしたのだった。
◆◇◆◇◆
正門付近に見慣れた人影があった。
「鳴?」
「あ、お帰り晴。お話は終わりましたか?」
「ああ。珍しいな、お前が本家に来るなんて」
「まあ……たまには」
来ただけですけど、と眉を歪ませる。それでも鳴にとっては大きな一歩だった。
「双子に会ったぞ。お前にこれを渡してほしいと頼まれた」
「何ですかこれ。……んふ、可愛く育ってるなあ」
「これのどこにそんな要素見出した?」
ともあれ鳴が嬉しそうにしているので晴も自然と嬉しくなる。離れてはいても、家族は家族なのだ。
「そういえば、先日『御神送り』を行った雪の夫婦神様から『雪華の誉』を頂いたのですよ。これでまた彼岸屋に箔がつきますね」
「そうだな」
晴は欠伸を殺しながら鳴の嬉々とした声を聞く。本当に嬉しそうにしている鳴に自然と頬が綻ぶものの、晴は連日の『御神送り』の疲れからうつらうつらと舟を漕ぎ始めた。
「——なので今からパンケーキを食べに行きましょう!」
「いや頼むから寝かせてくれ‼」
まだ冷たさの残る風が頬を撫ぜる。その先には春を告げる桜並木が、今か今かとその開花を待ち侘びていた。
壱師の花紅 KaoLi @t58vxwqk
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