復讐に燃える没落貴族の青年、ハント。眼帯を装着しても損なわない美貌の彼が憎むのは、故郷を燃やした煽薔薇の魔女。彼女の四肢を分け与えた娘を探すため、貧民層の国ストヴァを訪れた。そこで出会ったのは、生き物を生み出す絵を描く少女。画商で酷い仕打ちを受けていた名もなき少女は、青薔薇の魔女の左手を持っていた。赤黒く塗りつぶされた、呪われた左手を――。
過ぎたる怒りは人を変えます。青薔薇の魔女への復讐に取り憑かれたハントは冷酷無比な態度も厭いません。世渡り上手な作り笑顔も得意技。必要であれば優しく振舞う事だってできる。そんな彼自身すら見失っている「本当の自分」を、健気な左手姫・アリィが見つけてくれるのです。
虐げられて育った画家の少女・アリィの愛を知らない様子は痛々しくもあり、いじらしいです。そんな彼女にハントは「偽善」と言って服や髪飾りを施すのですが、アリィが感じた幸せや喜びは本物です。最初は復讐に利用するために憐れな少女を買っただけかもしれません。ですが、愛を知らない健気なアリィと触れ合ううちに、本当のハントが少しずつ見えてきます。ここの惹き込み方がさすがだなぁと思いました。
人の心が惹かれ合う様子を丁寧に描いたダークファンタジーです。カースト制が蔓延った社会、魔女たちの思惑、謎に包まれた青薔薇の四女――分厚い世界観を試し読みするつもりで拝読してみてください。あっという間の4万字に、きっと魅了されます!