第二十一話 食らう者
ガクンッと体に魂が戻る独特な感覚に酔う。ぼんやりとしていた意識は食らわれている牙の痛みが追いついたことで覚醒していく。
遠野は言った。自分は真下にいると。
遠野は言った。待っていると。
伝えなくては。生きる為に利用しろ。
「——め、いッ!」
今出せる精一杯の声量で晴は鳴を呼んだ。鳴は俯けていた顔を勢いよく上げた。
「鳴ッ、彼岸池の門を、開けろ……‼」
鳴は一瞬晴の言葉に驚愕したがすぐにその言葉の意図を理解したのか、扇子を鍵に見立て思い切り地面へと衝き刺した。ぐるりと鍵を開けるようにして「開錠!」と叫ぶと鳴の言葉に反応して犬神の真下から巨大な“襖門”が出現した。
戸が開けばそこから全身に楔を打たれた烽火九尾が現れ、その巨躯が地上へと這い出る。まるで地獄の番犬が罪人に制裁を加えるように、烽火九尾は晴ごと犬神を呑み込んだ。ごくりと喉越す音は絶望の音に似ていた。
「……やはり
そう呟くと烽火九尾は猫が毛玉を吐くような仕草をする。少しして重量のある音がすれば、そこに打出の小槌を握ったままの晴が烽火九尾の口から吐き出された。
「はる……っ」
鳴は晴の傍へすぐに駆け寄り、意識を失ったままの晴の胸に耳を当てる。鼓動は小さくも力強く打っていた。見れば、牙が食い込んでいたはずの彼の体には傷が見当たらない。疑念に思いつつも生きていることに鳴は安堵した。
舌で口元についた血を舐めづった烽火九尾が晴を蔑む。
「……次は無いと思え晴」
興が削がれたのか烽火九尾は体をぬるりと翻し、大人しく彼岸池へと消えていく。最後の尾がずるりと吸い込まれた時、襖門は再び閉ざされた。
唸る声が鳴に届く。意識を戻した晴に、鳴は優しく微笑んだ。
「……んふ、おはようございます、晴」
「……ああ、おはよう、鳴」
生きている。
それだけで二人は明日を向ける。
晴の生還を噛み締めていると、不意に晴の手元の小槌が光り出した。何事かと目を見張っていると、次の瞬間「ふわあ」という間抜けな声が空気中に霧散した。
「あら? ここはどこかしら?」
打出の小槌から突如現れた若い女性、その人物こそ
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