かんざしとうなじ

KeeA

不意打ち

「いつも思うんだけどさー、すごいよね」

「え?」


 友達の美奈が自分の頭を指差して言った。


「簪。それって結局さー、棒一本で固定してるわけじゃん? でも全然崩れないよね。あたしもやってみたいけど肩までの長さしかないから無理だろうし、不器用だからな~」

「それくらいの長さがあれば結えるよ。結構簡単にできるし。やってみる?」

「え! ほんと! やりたいやりたい!」

「オッケー」


 鞄から予備の簪を取り出すと、横を通り過ぎる一人のクラスメイトが立ち止まった。


「その簪かわいい~」

「ありがとう」

「いまから簪で髪の毛まとめてもらうんだ~」

「え~そうなの? 見ててもいい?」

「うん、もちろん」

「え、なになに」

「簪で髪の毛まとめるんだって~」

「見たい見たい!」

「わたしもやってみたい!」






「……っていうことがあってからクラスが簪ブームなんだよね~」


 朝は、家が近いこともあり、宏武ひろむとばったり出くわしてそのまま登校することが多い。今朝も、例外になくそうだった。


「ふ~ん」


 興味無さそうに相槌を打つと、なぜか私をじっと見つめた。


「でも、今日はおろしてるんだ?」

「今日はちょっと寝坊しちゃって……」


 すると、温かいものが一瞬私の首に触れた。宏武の手が私の髪の毛を優しく持ち上げていた。思わず足を止める。


「もったいないなぁ。綺麗なうなじが見えなくて」

「え?」


 パサッと髪の毛が落ちる。一瞬言われたことが理解できないまま、私は言った。


「えっと、学校に着いたらやるつもりだった、んだけど……」

「そう。それならよかった」

「宏武~」


 前から宏武の友達が大きく手を振って彼を呼んでいた。それに気が付いた宏武は歩き出すと、振り返った。


「じゃあ、また後でな」

「う、うん」


 ひらひらと手を振って、彼は駆け出した。





「今日……熱いな……」

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