第4話 ご新規さんは異世界転生者!?(前篇)

???「魔王が倒れ、魔物たちの活動も縮小し始めたな。どうやら私の役目も終わりらしい」

???「―――これからどうなされるので?」


使者と思しき服装をした男の言葉に魔法使いの容姿をした初老の男はふむと蓄えた髭を触りながら一考。

しばしの沈黙の後、男は口を開いた。


???「今の所は何も考えていないがゆったりと今後を過ごすことにするよ」

???「そうですか」

???「王にはよろしく言っといてくれ。あと勇者らにも息災でな、と」

???「わかりました。――――様もお元気で・・・・・」


使者を見送ると男は住まいに戻る様に踵を返す。

魔王が斃れてから数か月、魔王打倒に貢献した勇者パーティは役割を終え、皆が

それぞれ新たな生活に歩み始めていた。

この男―――パーティのブレーンであった魔法使いもまたパーティ解散に伴う形で

自身の身の振り方を考えている所である様子だった。

王国からは要職の誘いもあったが元々人混みをあまり好まない性格故に宮仕えも

性に合わないとして辞退し、人里からそこそこ離れた森の奥地に小屋を建ててそこでひっそりと隠遁することを決めたのである。

勇者たちは解散の際にしばらく逢えなくなることを寿命のある内は何らかの用立てでまた逢えると諭していた。


???(―――とはいえ、私が必要とされることはもうあって欲しくないがな・・・・・)


内心そう思いながら彼は今後のことを考え始めていた。

後世の為の書物でもまとめるかなども考えたがそれに関しては適任がいると自ら却下してとあれやこれやと思案を始めてしばらくの刻が経った。

粗方の思案も出尽くしていよいよ暇を持て余していたが書庫を物色中にある一冊の本を見つけた。

装丁も他の書物とは一線を画した特別な印象と雰囲気を抱かせる分厚い書物だ。

その本は他の書物と比べると古ぼけた物で彼が仕入れた所謂コレクションの一つに過ぎなかったのだが


???「そういえば書庫に突っ込んだまま忘れておったわ・・・・・・」


こんなものもあったなと思い出しながらその書物を持って椅子へと腰掛けると即座に書物に目を掛ける。

その文字は今は使われていない古のモノだが魔道に携わる彼にとってはそこまで苦労することではなかった。


???「内容は――――ふむふむ。そこまで目新しいものは特にないか・・・・・」


粛々と読み進めていた彼であったがふとある記述に目が留まる。

その項目は所謂転生などに関わる術式などに関する記述が纏められていた。

無論、転生に関することには男もそれなりに興味があったそれ以上に目を引ける

記述があったのだ。


《異世界へと転生する術式の使用と利用》


異世界への転生。

過去に研究していた者がいたことは知っていたが成功したという話はついぞ聞かなかった。

それもそのはず、異世界に転生するということはこの世界との決別を意味するものだ。

単純な記憶を伴った魂の転生は世界の理に沿っていれば特にデメリットは発生することは少ないこと。

しかし、異世界への転生となると話は違ってくる。

本来、魔術などは世界の理に干渉することで発動し、効果を発揮するものが多い。

故に異世界へ転生する術式は非常にリスキーな要素が多いのだ。

理を理解してこそ術というものは機能するという理屈があるだけに別の世界の理に

作用できるかどうかはやや賭けに近い。

この書物にはそれに関しての危険性と可能性を記していたがその術式が完成には至らなかった様だ。


???「道理よな・・・――――ふむふむ、一応の術式の工程などは記されてはいるな」


書物を読み解きながら、時折、声に出してしまう様に頷きと反応を無意識にしていたことに気づいてフッと笑みを零す。

これらの癖は勇者らと共に居た時、彼らに講釈をする際に身に付けた癖である。

彼らと別れてからそこまで月日はまだ経ってはいないがそれでもあの日々を懐かしく思っているのは自分としては非常に唯意義で充実していたのだろうとひとり納得する。

思い出を懐かしみながらも書物を読み終えた彼は背を伸ばす様に席を立つ。

そして何かを思い至ったのか地下の方へと足を運ぶ。

地下は新しい術式や研究などを行う為に作成した部屋であったが小屋を建てた後、特にやりたいことが無かった為、一応手入れはしていたが無用の長物に近い形にまでほったらかしにしていた。

そんな地下室に足を運んだ魔法使いは部屋に入るとそそくさと儀式と研究の準備を始める。

今更ながらこんなことをし出したのはやはり読んでいた書物に書かれていた異世界への転生に付いてだ。

危険性も十分高い異世界への転生術ではあるが彼をこうも駆り立てたのは言うまでもなく“未知への可能性”だろう。


???「使うかどうかはわからんがいつか使う者がいるかもわからんが、興味が湧いているのが事実でな」


自らを納得させる様にそう呟きながら彼らは古代の民が成せなかった技術の完成の為に研究を始めていく。

月日は流れ、魔法使いの存在も伝説の様に歴史の中で語り継がれるほどの歳月へと経っていた。



そして―――――世界は変わり、マオウ・イカイが転生した異世界へと物語は移る。

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