第2話 メイドの仕事って楽しいです

魔王だった頃、メイドの仕事に付いてとかく考えたことはなかった。

メイド―――侍女という存在は主人の身の回りの世話や補佐などを

行う業種であることは知っている。

しかし、それはあくまでも“知識”という認識しか持っていなかった。

それ故、“経験”という認識については転生した後に持ち合わせることになる。

それが――――


???「~♪」


――――それが、こんなに楽しいことだったとは!!


鼻歌交じりでテキパキと仕事をこなしていくメイド服を着込んだ金色の長髪をまとめた女性。

実は異世界からの転生だとは思わせない様な風貌の彼女―――イカイ・マオウは

この家の専属メイド。

フリーデザイナーであるユウキ・セカイが募集した【お手伝い同盟】からやってきた。

当初こそ主人となるユウキに困惑などされていたが今は気楽にお互い話合う間柄へとなっている。


マオウ(メイドとしてはご主人様と気楽に接し過ぎるのもどうかとは思うんですけどもねぇ―――)


無論、マオウは憚れてたのだが主人であるユウキとの対談と要望もあってか今の形に落ち着く。

教わったこととは異なる形へと至ったがこれはこれで主人との絆が深まったと考えれば御の字か。

マオウの敬語に関してはマオウとセカイ双方の要望でこのままとなったのも大きい。

そんなこんなで彼女のメイドとなったマオウは彼女の身の回りの世話をしながらそれなりに充実した毎日を送っているのである。


マオウ「洗濯物完了。あとはリビングのお掃除をした後、セカイ様への間食用のおやつを用意したら次は―――」


洗濯用具をそそくさと片づけながら次の仕事の確認などをブツブツと言っているとリビングにこの家の主が姿を現す。


マオウ「あ、おはようございますセカイ様!」

セカイ「―――おはようマオウさん。ふぁ~、眠い・・・・・・・」


寝起きなのか髪がボサボサの眠気眼な状態のユウキ・セカイはマオウに軽く挨拶を交わすと欠伸をしながら椅子へと席に着く。

まだ目覚め切れていないセカイにマオウは目覚めを兼ねたカフェオレを彼女の前に差し出す。


マオウ「お目覚めの一杯にどうぞ」

セカイ「ありがとう――――ふぅ、美味しい~」


感謝の一言を言ってからセカイはゆっくりとカフェオレを口に運ぶ。

砂糖の甘味とミルクのまろやかさにコーヒーの苦さとミックスされたほろ苦さが寝ぼけた頭の意識を緩やかに活性化させていく。

そんなセカイを見た後、そそくさとキッチンへと向かい朝食の準備をテキパキと進めるマオウ。

手慣れた手捌きでフライパンを巧みに操り、パッパッと料理を作り上げる。

その様子をまだ眠気が残っている顔でカフェオレを飲みながら見ているセカイ。


セカイ(メイドだけあって凄い手際だ~・・・)


内心で感心を寄せるセカイを余所にマオウは手際よく朝食を整えていく。

そして出来た朝食をお皿に盛り、トレイに載せてテーブルへと持ってくる。


マオウ「は~い、朝ごはん出来ましたよ~」

セカイ「おお~シンプルに美味しそうというラインナップ!!」


眠気も覚めたセカイの目の前にはマオウが作った朝食が盛られたお皿があった。

その内容はスクランブルエッグに焼いたソーセージ、そして海苔を巻いた混ぜご飯のおにぎりだ。

軽食としても朝食としても十分いける雑に美味しそうとも言える食卓となっている。


セカイ「いただきま~す」


手を合わせて声に出した後、手に持ったフォークでスクランブルエッグを口に運ぶ。

絶妙なトロさと焼き加減と甘さがハーモニーとなって目覚めたばかりの身体に刺激を呼び込む。


セカイ「うーん、マオウさんの作るご飯はホント美味しい!」

マオウ「ありがとうございます!」


笑顔で食べる主人に笑顔で返すマオウ。

そんなやり取りを続けた後、食事を楽しく終えたセカイはごちそうさまのポーズを取った後、お皿を下げて片づけていくマオウ。

上半身を伸ばす様な仕草を椅子に座ったまましながらセカイはマオウへと言葉を投げる。


セカイ「マオウさん、この後はどうするの?」

マオウ「ハイ。朝食の片づけの後はリビングのお掃除とセカイ様のお仕事の合間のおつまみ用のお菓子用意ですね」

セカイ「今日のおやつは?」

マオウ「今日はチョコチップクッキーです♪」

セカイ「よっしゃ!それを楽しみに仕事やってきます!!」


マオウの言葉に俄然やる気を出したセカイは勢いよく立ち上がって寝巻を脱ぎ捨てた後、そのまま自室へと突っ込んでいく。

その様子にクスリとマオウは微笑みを零し、気合を入れる様にポーズを決めると

ご主人への想いと期待に応えるべく自らの仕事に取り掛かる。


マオウ(メイドの仕事って楽しいです!!)

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