第55話 一方クイナは、『初めて』に奮闘
森の入り口でアルドと別れ、クイナはちょっとだけ心細い思いだったの。
離れても、時間になれば再会できるという確約があった今までとは違うの。
いつ帰ってくるか分からないし、いつ帰れるかも分からない……。
でもクイナはアルドに「頑張る」と言ったの!
アルドはよく「大丈夫」という言葉でクイナを安心させてくれるの。
すごいの。
だからクイナも「頑張る」を本当にするの!!
そう思い両手の拳をグッと握った時、後ろからクイナを呼ぶ声がしたの。
「クイナちゃん、行ける?」
「勿論なの! マリアさん」
森の中では、五人で一つのグループを作るって聞いてるの。
クイナのグループには『天使のゆりかご』の……ううん、『先生』のマリアさんと同じグループなの。
元気よく返事をしながら彼女のところに走っていったら、マリアさんは中腰になってクイナとまっすぐに目を合わせてくれたの。
「心配いらない……って言っても緊張しちゃうと思うけど」
苦笑しながら言ったマリアさんに、何故そんな顔をするのかなと思ったけど、彼女の目がクイナの耳に向いていたから分かったの。
クイナ、耳がペタンとなっちゃってるの。
「何かあったらすぐに言ってね。そういうのを取りまとめるのも私の役目だから」
「分かったの」
頑張っても意識してみても耳はペタンなまんまだけど、それでもしっかり頷けば、マリアさんは少し安心したように微笑み、同じグループの後の三人にも言ったの。
「じゃあ行きましょうか。森の中では無理をせず、自分たちにできる事をしましょう」
マリアさんの声に、クイナはもう一度「うんなの!」と頷いたの。
クイナのグループの残りの三人は、全員アルドみたいな大人だったの。
男の人が二人、女の人が一人。
クイナがそこに合流すると、一人だけ見た事のある顔があったの。
別に話した事がある訳じゃないし、アルドのお友達でもないの。
でもギルドでよく見る顔だったから、たまたま覚えてたの。
でもそれ以外の二人は、覚えている人じゃなかったの。
多分二人も、クイナを知らないの。
「おいおい、こんなガキ連れていくのかよ。足手まといとか御免だぜ?」
「ちょっと、小さな子にそんなこと言わないの。きっとこの子だって、街のために勇気を出して参加してくれているんだろうし、私たちと同じC級だからこそ参加できてる筈なんだから」
男の人は、クイナを面倒くさそうにして見てたの。
女の人は、そんなクイナを気にしてくれてるみたいだけど……。
「君、怖かったら怖いって言っていいからね?」
女の人は、そう言って前に向き直った。
優しさなんだと思うの、多分。
顔も声も、とっても優しかったの。
でも。
クイナ、アルドがいなくても頑張れるの!
怖いよりも、そっちの気持ちの方が強いの!!
失礼しちゃうの!
子ども扱いにちょっとプンプンとしながら、クイナたち一行は進むの。
……周りに魔物はいないの。
クイナ、アルドの真似して探索魔法を使ってるの。
先に魔物に気付くのはいつもアルドだけど、今日はアルドはいないからクイナも役に立つかもなの。
「静かなの」
辺りには、クイナたち以外に何もいないみたいなの。
そう感じるの。
ちょっと気味が悪いの。
でももしかしたら、他の生き物のクイナが感じているのと同じ気味の悪さを感じて逃げてっちゃったのかもしれないの。
そう思った時だったの。
「マリアさん、何か来るの! 十二体なの!!」
「はぁ? 適当言ってんなよ、ガキ」
「ちょっと、そんな言い方」
男の人を窘めた女の人も、止めはしても苦笑気味なの。
信じてないの。
でもいるの。
マリアさんは、クイナの言葉にちょっとだけ驚いたような顔をしたの。
そして言ったの。
「よく分かったね。結構遠くだったけど……うん。まっすぐこっちに近付いてきてる」
「えっすごい!」
「適当に言っただけだろどうせ」
一々一言言わないと気が済まない男の人に、クイナはちょっとご立腹なの。
でも今は、それよりも敵を倒すのが先なの。
なんせ相手は――。
「オーク……!」
ドシンドシンと地面を揺らしながら、豚の顔を乗せた大きな体が二足歩行でやってくるのが、砂埃の向こうから見えてきたの。
男の人が、顔を強張らせたの。
女の人はちょっと青ざめているの。
もう一人の人は、怖い顔でオークを睨みながら半歩ジリッと後ずさったの。
でもクイナは思い出すの。
もう何度も向き合ってきた相手なの。
戦い方も注意事項も、もう全部ちゃんと知ってるの。
「アルドに見守ってもらいながらだけど、クイナ一人で倒せたの! アルドがいなくても頑張れるの!!」
声に出してクイナは自分を鼓舞しながら、体の中の魔力を練り上げるの。
追放殿下は隣国で、じきに素性がバレちゃいます?! ~国の未来はもう背負わない。だってただの冒険者だし~ 野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中 @yasaibatake
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。追放殿下は隣国で、じきに素性がバレちゃいます?! ~国の未来はもう背負わない。だってただの冒険者だし~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます