第二節:原因調査

第54話 この森は、俺のペアの庭



 ギルドの入り口で不服そうなマーゼル様に見送られ、森の入り口付近でクイナとも別れた。

 比較的気丈に振る舞っていたが、クイナの尻尾が力なく下がっていた事を見逃す俺ではない。


 大丈夫だろうか、クイナ。

 怖がってないかな。

 転んでるかも。

 もしかしたらオークと出逢ってしまって、あのものすごく臭いのの被害に遭っているんじゃあ……。


「……ド、アルド!」

「あ、あぁ」

「大丈夫か? 心ここにあらずだな」


 肩を叩かれて初めて名前を呼ばれていた事に気が付いた俺は、やっと今正に未知の脅威が潜んでいるかもしれない森の中を歩いているのだという事を思い出した。

 隣には、苦笑交じりの見知った顔が。

 顔見知りと探索のペアを作らせてくれた事に、ギルドには感謝しないといけない。


「すまない、レオ」


 そう言うと、レオは苦笑しながら「ホントだぜ。ちゃんと周りを警戒しとけよ?」と言ってくる。


 いやまぁ警戒はちゃんとしている。

 毎回クイナと一緒に森に入っているのだ。

 森に入れば探索魔法をかけておくというのは、最早癖のようになっている。


 今も例外ではなく、クイナがいなくても魔法はかかっており、半径100メートル以内であれば何かあればすぐに分かる。

 が、現状においては『警戒すべきものがない』事が警戒する理由になってしまう。


「これだけ周りに生物の気配が皆無なのは初めてだ」

「たしかにな。鳥とか小動物の気配さえしないからな」


 そう言いながらも、流石は街に常駐しているB級冒険者という感じだろうか。

 レオはこの異常な事態にも至って落ち着いているように見えた。


 彼曰く「この森は俺の庭みたいなものだからな」との事である。

 まぁたしかにミランさんのハートを射止めるべく、また彼女がいるギルド・ひいては王都を守るべくここを離れないと決めた……というのを先日天使のゆりかごでたまたま食事の時間が被った時に、酒を交えながら話していたレオだ。

 俺とは違い何度も森の奥まで行っているようでもあるので、頼れる助っ人である。


「そういえばアルド、お前この前、王城に行ったらしいなぁ?」


 この前といっても、随分前だ。

 そしてそれが今、この状況と何の関係があるのだろう。


 ……もしかして、パーティーでの一件をB級はギルドに教えられているとか?


「どうだった? お貴族様に囲まれて」


 ちょっと楽しげにそう聞いてきた。

 別に勘繰っているなどというふうもなく、揶揄い交じりという感じだ。

 おそらく俺が貴族の中でオロオロとした話などを聞きたいのだろう。

 結構真面目な事を考えていただけあって、ちょっとガクッと来てしまった。


「いやまぁ別に、無難に終えてきたよ」

「えー、つまらないな。綺麗でいいところの娘もいたんだろ?」

「何の期待をしているのかは知らないが、クイナもいたし、むしろクイナの方が言い寄られてたくらいだぞ」


 それに社交界の令嬢たちは、皆ばっちりメイクにきつめの香水。

 素朴な感じの女の人が好みな俺としては、何一つとして嬉しい事などありはしなかった。


「あの子に負けたのか。年上なのに」

「笑ってんなよ、ミランさん一人落とすのに、何年もかかってるようなやつが」

「何を言う。十何年だ」


 まったく胸を張るべき話ではない。

 

 思わずそう思い苦笑しかけた時だった。

 ビリビリと、禍々しいものの存在を感じ、バッとそちらの方を向く。


 

 一拍遅れてレオも気が付いた。


「相変わらず、感覚が鋭敏っていうか。本当に、C級冒険者にしておくのが勿体ないぜ」


 苦笑しながらも、彼は剣を鞘から抜く。

 俺も同じだ。

 俺は既に、鞘から抜いた剣に炎を纏わせ、相手を焼き切る気満々だ。


 どこかで怪我でもしてきたのだろうか。

 戦う前から相手は既にオークよりも醜悪な臭いをさせていた。


 目の前には、ハイグール。

 いや、グールも混ざっている。

 しかも個体数は、おそらく十体以上。

 パッと見では数えられないくらいにはいる。


「怪我するなよ、アルド」

「レオはしてもいいぞ。あとで治癒魔法かけてやる」

「嫌だわ、痛いのに」


 そんな軽口を叩き合いながら、俺たちは同時に地を蹴った。


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