二 はじまりの日(4)
純喫茶〈三色旗〉の代金はどうやら、羽坂が支払ったようだった。お支払いは羽坂特務曹長殿がお済ませになりました、と言われて高久は頭をかいた。あの男はああ見えて抜け目ない。しかも辻馬車の手配も済ませたようで、五十番乗場にお
至れり尽くせりだと呑気なことを思いながら後ろを歩く令人に声をかけた。
「令人。
「羽坂特務曹長殿が
高久は感心しつつ、こうまで先回りされると居心地の悪さを覚える。だが、時間短縮になったことは
駅の玄関口を出て右に
〈白扇通り〉は小説家が多く住まう地区で、〈
今から向かう所は
高久は何故か、この小説家に気に入られている。高久はその理由を十分に承知している。あまりよろしくない理由故、本当は令人を会わせたくないのだが、高久と令人がこの小説家に会いに行く理由が理由だけにそうも言っていられない。
小説家の家は伝統的な木造家屋である。黒光りの瓦が白い風景の中で
「高久軍曹殿と桐ケ谷令人様ですね。お待ちしておりました。少々、お待ちください」
小さな扉が閉ざされ、間を空けずに門扉が片方、開いた。もう片方も完全に開き切ると、書生は高久と令人を前に家に導いた。
「どうぞ。こちらへ」
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