一章 顔のない男
一 白幹ノ国
ここ、〈
まだひとつの国がなかった
白い木、というのはそのままの意味で、木の幹、根、葉、全てが真っ白な姿を持つ〈
通常ならばあり得ぬ事例である。日の光を
白い木は
火に包まれた中でも白い姿を見せる幹だけが白いまま燃え残り、その中から白い人型が現れた。
白い衣をなびかせて、現れたその
――我が名はまほら。
息を止めながら事を見守るものらに対して、水面の波紋が広がるように声が響いた。
――この地に祈りを。この地に呪いを。
まほらの手が
――これより産土神よ。争うことまかりならぬ。この日を
まほらが手を下ろし、歩き出すと水面に
――我が名はまほら。世の
――対の命を
それは静かでありながら、力強い声であった。
――
まほらは更に声をあげた。水面に
――
産土神の間から戸惑いの声が広がる。声を
――汝らの間で言葉を交わすことまかりならぬ。産土神は氏子の為に。氏子は産土神の為に。そうして我が身を焼き尽くした。
まほらは
――言葉
――これは言祝ぎ。我が祈りと呪い。我は対の命を受け入れ生かさん。
水が
――祈れ、呪え。我が万世を。
さあ――とまほらは手を叩いた。軽やかに鳴る音は鐘のように重々しい響きを
以来、産土神と氏子が言葉を交わす時はまほらが間を取り
そうして、まほらは自らへの呪いとして産土神の土地を自分のものとすることはなく、自らの土地のみを
ここに自生する植物は白い姿をして生まれてくる。その植物は他の土地では育つことなく枯れ、〈白幹ノ国〉のみに
このことはまほらの威光を示すものとなり、今日まで伝えられている。
――『
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