はなまつり

多田いづみ

はなまつり

 風邪をひいた。

 寝込むほどの大したやつじゃない。咳も出ない。が、熱で頭がぼうっとするし、鼻がひどく詰まる。俗にいう鼻風邪というやつだ。首から上は暑くてたまらないのに、首から下は悪寒でガタガタ震えっぱなし。目一杯あったかくしたこたつに足をつっ込んで、寝間着を何枚も重ね着した上にたっぷり綿の入ったどてらを羽織り、さらに上から毛布を掛けても体の震えがいっこうにおさまらない。やたらとはなをかむので、鼻のあたまは擦り切れて真っ赤っか。こたつの上には、かんだ鼻紙の白い山。

 ひとつ大きなくしゃみをすると、ブランとまるで漫画みたいに長い洟が垂れた。自嘲じちょうの笑みを浮かべながら鼻紙でつまんでみると、これが妙にねばついてなかなか切れない。引っ張るとズルズルとそうめんのように長く延びた洟が、鼻の穴からいくらでも出てくる。怖さ半分、面白さ半分で引っ張りつづけると、鼻の奥で何かがつっかえた。とまれこのままずっと洟を垂らしておくわけにもいかないし、用を足すのを途中で止めたような半端な感じがしてどうも気持ち悪い。ぐいと強引に引っ張ってみる。するとスポンと栓が抜けたような音がして、頭に詰まっていたものがドッと流れ出した。

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はなまつり 多田いづみ @tadaidumi

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