私がついてますよ、先輩!

護武 倫太郎

第1話

バイトが遅くなり、弁当の袋を抱えて帰ってきた俺が、いつものように鍵を開け自宅の扉を開くと、部屋の奥からパタパタと駆け寄ってくるような足音が聞こえてきた。


「おかえりなさい、先輩。今日もおつかれさまです。って、あれ?なんだかすごく疲れてる?顔色悪いですよ」


俺はよほど疲れていたのか、心配そうな声が聞こえてくる。

その女性の声は鈴のように清らかなものだった。


「まずはしっかり栄養をとらないと、メッです。まあ、私は料理なんて出来ないわけなんですけどね、へへ」


「そ、そのうち、料理も勉強しますよぅ。そのときは、先輩・・・・・・、下手っぴでも食べてくれますか?」


「なんちゃって。・・・・・・で、今日のお弁当は何ですか?私の予想だと・・・・・・、芳野家の牛丼じゃないですか?しかも生卵まで付けちゃうやつです。ふふふっ、あまりにも簡単に正解を出されてびっくりしてるんじゃないですか?まあ、女の子は芳野家に行きたがらないとはよく言いますけど、わ・た・し・は、牛丼嫌いじゃないですよ」


「って、芳野家の牛丼じゃなくて、モットホットの熱々特選幕の内弁当じゃないですか。先輩が正解とも不正解とも言ってくれないから、すっかり牛丼の口になっちゃいましたよ。どう責任を取ってくれるつもりなんです?」


「・・・・・・まあ、幕の内弁当も好きですし、野菜も焼き魚も入って栄養価も高いですし、この特選たるゆえんのすき焼きなんてほぼ牛丼の具みたいなものですし。う~~~、牛丼が食べたかったですぅ。女の子ひとりで芳野家に行くのはハードル高すぎですし、デートでは絶対に行きたくないですし、先輩がテイクアウトで買ってきてくれるのが一番良いんですよぅ」


「明日は絶対に芳野家の牛丼でお願いしますよ。しかも生卵までつけちゃってくださいね。約束ですよ」


「さあさあ、冷めないうちに食べましょうか・・・・・・って、何で先に食べ始めちゃうんですか?もう信じられないですよぅ。そんなにお腹が空いてたんですか?ちょっとくらい話を聞いてくれたっていいじゃないですかぁ・・・・・・」


拗ねたような口調で抗議をしてくる。


「もう・・・・・・仕方がない先輩ですね」


「はい先輩、あーん」


俺の口元に突如すき焼きが差し出された。


「なんでそんなに驚くんですかー?って、まあ、突然だったらビックリもしちゃいますよね・・・・・・」


少し申し訳なさそうな声だ。


「でもでも、これはうれし恥ずかし、ドキドキのシチュエーションじゃないですかぁ。私だってこんなことをするのは、先輩が初めてなんですからね。ほら、恥ずかしがってないで食べて下さい」


「・・・・・・もう、先輩の照れ屋さん。ふふっ、次はきっと食べて下さいね。これも約束ですよ」

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