第9話

夏はとうに過ぎ去り、家路を歩いていると乾いた落ち葉を踏む音が聞こえるようになった。耳を澄ますと鈴虫も鳴いている。


「で、あれからしばらく経ったわけで、もうすっかり秋なわけだけど。本当に彼女は君の部屋には一切現れなくなったのかい?」


千鶴はあの日からも、俺のことを心配してくれている。


「どれどれ、ちょっと霊視をさせてくれたまえ・・・・・・」


千鶴は顔を近づけると、ふむふむと言いながら霊視のために顔を近づけてきた。吐息が当たるくらいの距離で見られると、やはり照れくさい。


「まあ、君からはあの子の気配もそれ以外の霊の気配も感じられないね・・・・・・、うん。ま、本当に彼女が君の家から消えてしまったのか、それを確かめに君の家に行くわけなんだけどね」


「なあにアフターサービスというやつだよ。そもそも僕は彼女を祓ったわけでも、あの部屋から追い出したわけでもないんだけどね。べっ、別に君の家に行って一緒にご飯を食べたいなぁとか、そういうわけではないんだからな」


突然千鶴が慌てた様子でまくしたて始めた。


「うん、そうとも。でも、彼女が本当にあの部屋からいなくなったのだとしたら、これはいよいよ僕もうかうかしてはいられないってことだよね・・・・・・」


小声で何かをごにょごにょとつぶやき出したかと思うと、不意に耳元に近づいてきた。


「ふふっ、君もなかなか果報者だと思わないかい?こんなにかわいい僕のような後輩に心配されるなんてっ」


「はははっ、さすがの君も僕の気持ちには察しがついているんだろう?だが、僕はフェアプレイが好みでね・・・・・・。例の先輩に振られて日が浅い君に、そして同居していた地縛霊くんがいなくなって寂しがっている君に、私で寂しさを埋めてくれなんて、言えないさ」


からかうような口ぶりだが、その声色は恋する乙女そのものだ。さすがに気づけない俺ではない。しかし・・・・・・。


「なあに、今すぐに結果を求めたりはしないさ・・・・・・。まずは、僕の魅力を君にアピールさせてもらおうかなっ」


千鶴は耳元でささやくように、愛の宣戦布告をしてきた。

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