最終話
―――ピンポーン
玄関のチャイムが鳴らされた。
「おや、お客さんかい?今帰ってきたばかりだというのに、せわしないねぇ」
千鶴と家に帰って来るや否やのできごとだった。
玄関を開けると、そこには艶のある黒髪を秋風になびかせながら、アイボリー色の上品なワンピースに身を包んだ、見覚えのない美少女が立っていた。
「はじめまして。今日から隣の部屋に引っ越してきた、
「おやおや、やはりそうきたか・・・・・・」
俺の後方から、訳知り顔の千鶴はそうささやく。
「あれ?どうしたんですか?鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして。こうして顔を合わせるのは初めてですよね?・・・・・・もしかして、私の声に聞き覚えがあるなあ、なーんて思ってるんじゃないでしょうね?」
その声はちょっと前まで俺の部屋で聞こえていた地縛霊の小悪魔のような声そのものだった。
「ふふっ、やっぱり、先輩には私の声ずっと届いていたんでしょう?それなのに、一度も返事をしてくれないなんて、酷すぎませんか?先輩が無口なのは知ってますけど、さすがに酷すぎですっ。うらめしや~、ですよ。ふふっ。なんちゃって」
「はぁ・・・・・・、地縛霊くんが部屋から消えたと聞いたときに、こうなる予感はしていたよ」
俺を挟んで玲奈と反対に立つようにした千鶴にはすべてが分かっている様子だった。
「あなたはあの日の霊能力者さん・・・・・・」
「千鶴だよ。彼とは同じ大学の先輩後輩の立場になる。・・・・・・地縛霊くん、いや、玲奈くんと同じように、ね」
玲奈と千鶴は俺を挟むようにして会話を続ける。
「そうなんですね・・・・・・。先輩、私、意識が戻ったんです。後期から大学にも通えます・・・・・・。先輩と、同じ、大学に」
「ふふっ、何が何やらという顔をしているね。どうやら玲奈くんは事故にあったが亡くなってはいなかった、ということなんだろうさ。身体から抜け出した魂が、生霊として地縛霊のようにこの部屋にとどまってしまっていた・・・・・・」
「そうみたいです。でも、そのままじゃいけないって・・・・・・、そう思って。ちゃんと、先輩ともう一度お会いしたかったから・・・・・・。そう思っているうちに、気づいたら意識が戻っていたんです。ふふっ、愛の奇跡、ですねっ」
玲奈の声には前向きで真っ直ぐな気持ちが込められているように感じられる。
「先輩、改めて言わせてください。あの日、私を助けてくれてありがとうございました。私は、先輩と出会えて幸せですっ」
「玲奈くん、残念だったね。先輩の隣はぼくのものだよ。先ほど彼にもそう宣言させてもらったからね」
「いいえ千鶴さん、先輩の隣はわたしのものですっ。消える前にも告白させてもらってますし、いろいろと約束もしてますからっ」
左右でとてもかわいい後輩が俺を取り合っている。あまりに贅沢な状況に頭がくらくらしてきた。
「先輩、前は無理でしたけど、今度は先輩に料理を作らせてくださいっ。先輩に食べてほしくて、お母さんにたくさんレシピを教わったんですっ。私の親子丼は絶品だって、お母さんのお墨付きなんですよっ」
「ふふっ、僕だって半年も一人暮らしをしているんだ。料理なら負けてないと思うよ。自分で言うのもなんだが、生姜焼きなら君の舌を唸らせられる自信がある」
「それにそれに、今度は私の水着姿もちゃんと見てもらわないと。海やプールに行くのもいいですけど……、また、お背中、流しちゃいましょうか?」
「き、君たちはなんてハレンチなことをしているんだ?ん、んっ。水着姿が見たいのなら、僕が見せてあげようじゃないか。ぼ、僕だって、脱いだらそれはそれはすごいものさ」
左右からそれぞれ、うーっとかわいらしく威嚇をしあっている。
「まあ、君が悩んだ時には、僕が隣についている。何せ僕は君が好きだからね。もちろん今すぐに返事をくれとは言わないよ。何せ僕は気が長い方だからね」
「先輩が元気に、笑顔になってくれるように、私はなんだってします。先輩の隣には私がついていたいんですっ。これからも、ずっと・・・・・・」
2人がそれぞれ、耳元で愛をささやいてくる。俺はいったいどうすればいいんだ?
「君・・・・・・」
「先輩・・・・・・」
「「大好きですっ」」
私がついてますよ、先輩! 護武 倫太郎 @hirogobrin
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