第5話
ひぐらしが鳴き始めた夕暮れ、俺は同じ講義を受けている中で話すようになった後輩の
「君が最近、講義中に居眠りが続いてるのは、絶対に理由があるはずだとは思っていたけど、まさか心霊現象とはねぇ・・・・・・」
千鶴はからかいを含みながらも、本気で心配をしてくれている。そういう話し方だった。
「まあ僕はただの後輩じゃなくて、霊感があることで有名だからね。・・・・・・信じてくれたのは君くらいなものだけど・・・・・・」
「まあ、相談相手としては僕以上の適任はいないだろうね。ふふふっ、君に頼られるというのは悪い気がしないねぇ」
千鶴は妙に距離感が近く、俺の周りをくるくる周りながら上機嫌に語りかけてくる。
「それで・・・・・・、君の家で奇妙な出来事が続いているから、なにか良くないものでも憑いているのではないかと。そう心配しているというわけなんだったよね。ふむふむ」
千鶴は俺の身体の全身を、何の遠慮も恥ずかしげも無く触りだした。ときどき漏れ聞こえる吐息が妙になまめかしく、俺の方が照れてしまうほどだ。
「いやあ、君にこうして触れられるなんて、まるで役得だねぇ。なーんてね」
前言撤回。恥ずかしいのは恥ずかしいようで、照れ隠しにからかうような口ぶりでごまかしだしたように思えた。
「・・・・・・なるほど確かに君の周囲からは、霊とのつながりとでもいうような、妙な気配があるようだね。うん、でもこの感じは君自身に取り憑いているというのとも違うようだね。あまり強い霊でもなさそうだ」
千鶴の整った顔が俺の顔に近づいてくる。くんくんと鼻を近づけると、俺の顔を嗅ぎ出した。実に恥ずかしい。
「はははっ、さすがにこれは恥ずかしいな。とはいえこれも霊視の一種なのだから我慢したまえ」
妙に長い霊視の後、千鶴は口を開いた。
「ふむ、しかし妙だな・・・・・・。君自身に霊が憑いていないとは言ったが、君への執着とでもいったようなものが感じられる。君には何か心当たりはないかい?」
妙に生ぬるい風が頬をなでていく。
「例えば・・・・・・、君と過去につながりがある人物、それもとても親しい間柄で誰か亡くなった人がいるとか?」
ひぐらしの鳴き声が一層大きく聞こえる。まだ日も暮れていないというのに、背筋が冷たくなってきた。
「そうか、特に心当たりが無い・・・・・・か」
「まあ、君の部屋を実際に見てみたら分かるだろう。なあに、今のところ実害は特にないのだろう?」
「ふむふむ。時折、誰もいない部屋から声が聞こえたり、突然風呂場の扉が開いたり、誰かに触れられているように感じたり・・・・・・。なかなか思っていた以上に存在感のある霊だな。物を実際に動かせるとしたら、それはかなり強い霊ということになる。しかし、そんな強い霊とは思えないんだよなぁ」
「へ?強い霊と弱い霊の違いかい?それは、思い残した感情の強さの差といえるだろうね。強い後悔が霊をその場にとどまらせたり、強い恨みが誰かを呪ったり・・・・・・。けど君の部屋にいるだろう霊は少し違うように感じる」
生ぬるい風がざわりと頬をなでる。
「一体、君の部屋には何が憑いているんだろうね?」
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