第4話

ふとんに入ってからしばらく経つが、どうにも今日は寝付きが悪い。そんな俺を心配するようにすぐ隣から声が聞こえる。


「先輩、眠れないんですか?」


布がこすれる音も聞こえる。


「先輩、最近ちゃんと眠れてないんじゃないですか?あの日から眠りが浅くなっているみたいで、心配してるんですよ。・・・・・・先輩、早く眠らなくちゃって、自分で自分にプレッシャーをかけてはいませんか?」


その声の主は、優しく慈愛のこもった声色で語りかけてくる。


「眠らないと、眠らないとーって、考えれば考えるほど緊張しちゃって眠れなくなるんですよ。だからまずは、リラックスするところから始めましょう」


声の主はやさしいメロディーで子守歌を奏でだした。


「ねーんねーんーころーりーよー おこーろーりーよー せーんぱいはー よいーこーだー ねーんねーしーなー」


耳元をやさしくくすぐるような音色に、何節も何節も繰り返されるメロディーに、少しずつ俺の意識がまどろみそうになる。


「せーんぱいはー やさしいーひとーだーかーらー いーいゆーめーみれーるーとーしんじーてーるー」


少しずつ歌詞がおかしなことになっていくなあと思いながらも、俺の意識はどんどん遠くなっていく。


「せーんぱいはー やさしいーひとーだーかーらー すーぐーにーだれーかーにーとらーれーちゃうー」


「・・・・・・先輩、もう寝ちゃいましたか?先輩はとっても優しくて、すごく良い人だから、私は怖いんです。私が知らないうちに、私にはどうすることもできないうちに、誰か良い女性ひとに取られちゃうんじゃないかって。誰かの彼氏になっちゃうんじゃないかって・・・・・・」


「先輩、最近眠れないのって、本当は私のせいですか?私が、私の声がもしかしたら先輩に届いているのかもって期待して、話しかけたりしているのが原因ですか?」


「ううん、それだけじゃない。突然、食べ物が浮かんだり浴室の扉が開いたり・・・・・・、そんなが頻発したらやっぱり怖いですもんね・・・・・・」


まどろみの中、その声の主が落ち込んだような声をしているように感じた。


「でも、こんな形でも先輩に会えたことが本当に嬉しいんです。・・・・・・例え、先輩にこの声が届いていなかったとしても、先輩を怖がらせるだけなんだとしても。私は・・・・・・」


「先輩、おやすみなさい。良い夢をみてくださいね」

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