第3話

「おかえりなさい。・・・・・・って、先輩?どうしたんですか?なんだかすごく落ち込んだ様子ですよ」


いつものようにパタパタと駆け寄ってくる音。この光景も、もはや日常と化していた。


「何があったのか分かりませんが、私で良ければ聞きますよ?こういうとき誰かに話を聞いてもらうだけでも、落ち着くものですから」


その声色だけはとても優しかった。


「・・・・・・私にも言いづらいようでしたら、あくまでも独り言として声に出しても良いのですよ。あえて口に出すことで、ぐちゃぐちゃしている頭の中が整理されてすっきりします」


「誰に聞いてもらうでもなく、ただ自分の中にあるもやもやとした黒い感情をあえて口にすると、ほんの少しですけど何が辛いのか、何が悲しいのかが分かるんです」


「だから・・・・・・、私に愚痴るんじゃなく、自分で整理するために愚痴っても良いのですよ?」


俺はあくまでも独り言として、今日あったことをつぶやいてみた。


「・・・・・・なるほど?同じサークルの美人な先輩に、告白して見事に玉砕してしまった・・・・・・と。もう、私という超絶美少女の後輩がおりながら、なんで別の女に告白しやがってるんですか?さすがにおこですよ」


途端に空気が変わった。冷たく鋭利な刃が身体中に突き刺さるような空気だ。


「むぅ。本当におこなんですからね。罰として・・・・・・」


―――ふうっ

突然耳元に、風が吹いた。


「罰として、耳元に吐息の刑・・・・・・ですよ」


―――ふう、ふう、ふうっ

耳元を生暖かい吐息がくすぐってくる。そしてささやくような声が耳元をくすぐる。


「うふふっ、思わず悶絶しちゃう先輩、かわいいです。そのかわいさに免じて、特別にゆるしてあげちゃいます。・・・・・・なんだか変な趣味に目覚めてしまいそうですね。なんちゃって」


「先輩には元気になってほしいので、優しい優しい私が、先輩をねぎらってあげますっ」


彼女の声が背後に回ったかと思うと、肩をもむような感触が感じられた。


「よいしょ、よいしょ。どうですか?気持ちいいですか?」


「んっ、んんっ、先輩、なんだか肩もこわばってますよ?もう少しリラックスしてください・・・・・・」


よいしょ、よいしょと、一生懸命肩をもんでくれているのが伝わる。


「・・・・・・少しは元気が出ましたか?」


「まったく、先輩を振るなんてその女性には見る目がありませんね。先輩はとっても優しくて素晴らしい人だって私が補償しますので、自信持って下さい。なんちゃって」


「先輩・・・・・・、私はここについてますからね」

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