第2話

―――ガラガラガラ

浴室の扉が控えめに開く音がする。


「・・・・・・先輩、お邪魔します」


おそるおそる入ってきた様子で、浴室に反響する声色は、おどおどとしながらも、どこか艶らしかった。


「・・・・・・お背中流しに来ましたよ。ってこんなことをするのも初めてですもんね。さすがにびっくりしちゃいましたか?安心して下さい。ちゃんと、水着を着てきていますから」


「この水着は、本当だったら今年の夏に着ようと思って準備していたものだったんです。まあ、結局着る機会はなかったわけなんですけど。ということで、せっかくなので先輩に特別にお披露目会です」


「どうですか?似合ってますか?」


そうやって俺に尋ねてくるその声は、言葉に似合わず緊張で震えているようだった。


「って、先輩。どこ見てるんですか?かわいい水着に身を包んだ私はこっちですよ」


「先輩って本当に照れ屋さんですよね。ま、そんなところもかわいいんですけど。うふふっ」


どうやら話しているうちに、調子が出てきたらしい。その口調はまるで小悪魔のようだった。


「どうですかぁ、先輩?かわいいかわいい私がご奉仕しちゃいますよ。なん・・・・・・ちゃっ・・・・・・て・・・・・・」


急に恥ずかしくなったのか、バタバタと慌てるような音が浴室に響く。


「か・・・・・・勘違い、しないで下さいね。こ、こんなことをするのは先輩にだけ、なんですからね。ううっ、なんだか私も恥ずかしくなってきました」


「って、先輩。ちょっとは反応してくれたって良いじゃないですか。なんだかムカムカしてきました」


「えいっ」


むにっと柔らかい重みが背中に当たっている感触を感じる。確かにほどよく張りのある、男の夢が詰まった二つの膨らみそのものの感触だ。

俺の背後から覆い被さってきたのだろう。


「先輩、今びくってしましたね。女の子に抱きつかれたのは初めてですか?ふふふっ、私だけ恥ずかしいなんて不公平ですから。これで、おあいこ、ですよ」


抱きついたままの状態だからだろうか、彼女は耳元でささやくように語りかけてくる。


「で、どうですか?私、かわいい・・・・・・ですか?」


「むぅ。ちょっとくらい、反応してくれないと罰が当たりますよ。なんちゃって」


「さ、先輩。お背中お流ししますよ」


ごしごし、ごしごし。

たっぷりの泡のついた手で背中をやさしくなでている感触が伝わってくる。


「先輩、指で背中に文字を書きますから、なんて書いているか当てて下さいね」


背筋がぞわっとしてくる感覚に耐えられず、俺は泡も流さずに湯船に飛び込んだ。


「もう先輩ったら、いくらくすぐったかったからって、泡くらい流してから入らないとメッですよ」


「・・・・・・また、流しっこしましょうね?先輩。今度は、私のかわいい水着姿、ちゃんと見てもらいますからね」


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