第19話 農道の天使

 三年前の夏のある夕方、いつも通り会社から車で帰宅していた。


 その日はなぜか国道が渋滞していたので、わきの農道へと入った。


 少し走ると、田んぼを一つはさんだあちらの畦道あぜみちで、白くて大きな生き物が羽ばたいて飛んでいくのが見えた。


 かなり暗くなっているのに、活動している鳥がいるのは珍しい。黒くて小さいコウモリの影なら毎日のように見かけるが、あんなに白くて大きい生き物は初めて見た。きっと、フクロウのたぐいだったのだと思う。


 そのことを友人のMさんに話したら、彼女は次のような話をした。


 ある週末の昼過ぎ、Mさんは車で買い物に出掛けたそうなのだが、近道をするために、本道から農道へと入った。


 そして本道から二百メートルぐらい走った辺りで、突然、左から真っ白い大きな鳥か何かが飛び出してきて、車の左フロント部分に激突した。


 その白い大きな鳥は猛スピードで飛び去ってしまった。


 一瞬の出来事で、Mさんもはっきりと見えたわけではないが、鳥にしてはかなり大きかったそうだ。小柄な人間ぐらいのサイズはあったかもしれないとか。


 その時のドライブレコーダーの映像を見せてもらったのだが、奇妙なことに、その鳥が現れたと思しき瞬間だけ、画面全体がホワイトアウトのように真っ白になっていた。常に音声はOFFで録画しているが(Mさんは運転をしながらよく好きな歌を熱唱するため)、衝撃しょうげきで車が揺れた様子だけは確認できた。


 さらに驚いたことに、その場所は数日前に、私がフクロウらしき生き物を見た農道だった。


 決してMさんが白昼夢はくちゅうむを見たわけではないと思う。実際、Mさんの車の左フロント部分はへこみ、同じ側のヘッドライトも割れてしまい、修理に出したと言っていたのだから。


 肉眼では見えるのに、機械には映らないモノとは、一体何だったのか……?


 あの夜、私が見た飛び立つ白い大きな影も、もしかしたらフクロウなどではなかったのかもしれない。離れていたので、大きさまではよく分からなかったのが残念である。


 Mさんは『あれって天使だったのかな? 自主規制したのかもね』と笑っていた。



 


 


 

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