第11話 凄いスキーヤーさん。

 あれは確か、小学四年生の頃だった。


 二泊三日で、東北地方のぼうスキー場へ家族旅行に行った。


 良い天気だったので、父親、四歳違いの兄、そして私の三人で、一番上のコースまで登った。


 雪は降っていたものの比較的穏やかな天気だったが、山の天気は変わりやすい。すべり始めて数分後、猛吹雪となった。


 雪は痛いほど顔面に打ち付け、視界も悪くなってくる。数メートル先もあまり見えないほどだった。


 手近の樹氷じゅひょうで猛吹雪をやり過ごし、少し収まった瞬間を見計らっては進み、また猛吹雪になったら樹氷を盾にする、といった感じでコースを下りていたが、そのうち猛吹雪の収まる瞬間がなくなってきたどころか、視界もさらに悪くなってきた。


 まさにホワイトアウト状態。一寸先は白。足元も障害物も見えず、このまま進んだら危険である。


 しかし、いつまでも猛吹雪の中でじっとしていたら凍えてしまう。


 どうしようかと悩んでいると、誰かが私達のすぐ脇をゆっくりと滑って通り過ぎた。


 顔や姿形がはっきり見えたわけではないが、若い男性スキーヤーのようだ。こんな超悪天候で平然と滑っていけるなんて凄い。このコースに相当慣れている人なのだろう。


 私達はその凄いスキーヤーさんの後をついて行くことにした。


 その辛うじて確認できる人影を見失うまいと必死だったが、兄も私も子供で、ましてや私はまだ小学生。そうそうスムーズには進めなかった。


 こんなペースでは、凄いスキーヤーさんは先に行ってしまう。


 だが、どうしたことか、私達が進んでは止まり、進んでは止まりとノロノロしていても、その凄いスキーヤーさんの人影は、いつまでも見える所にいた。


 もしかして、心配して待っていてくれているのかな? 子供が二人もいるのを見て、この猛吹雪の中、放っておけなくなったのかもしれない。


 凄いスキーヤーさんの人影をたよりに、それから三十分ぐらいかけて、ようやく少し天候の落ち着いている標高ひょうこうまで辿たどり着いた。


 スキーやボードを楽しむ人達がたくさんいて、どの人が先程の凄いスキーヤーさんなのか分からなかったが、ひとまずゲレンデのはじって休憩きゅうけい


 「凄かったな。女の人で、あんな吹雪の中をスイスイと……」


 父親が言った。


 「え? おじさんじゃなかった? お父さんより上だったと思うけど」


 兄が言った。


 あれれ? 若い男性だったんぢゃ……?


 そもそも、一寸先は白のあのホワイトアウト状態で、先行く人の影が見えたこと自体あり得ない、と後から気が付いた。



 




 

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