第8話

何をやっても落ち着かず

男は荒れていた。


鼻が痛くてシャワーもろくに浴びられず

イケメンだった男は

どんどん見窄らしくなっていった。


痛み止めを飲み

そのまま寝る事にした。


次の日は有給で休む事にした。


何も言われないのも辛いものである。


「会社でストレスが溜まるよりいい」


と思い少し寛ごうと思った時


携帯が鳴った。


あの女からだった。


「ふざけんななよお前!

大変だったんだぞ!」


怒鳴り付けると


「彼氏です。

先日はどーも。」


と低い声が耳にはいった。


「鼻の方はその後いかかですか?」


と聞いてきたので。


「ふざけんななよ!

お前の事訴えるからな!!!」


と怒鳴り付けると


「訴えられても構いません。

事故だと思っていますので。」


と冷静に応えてきた。


「そんなわけねーだろ!!!」


更に怒鳴ると


「もし逮捕されたとしても構いません。

どうぞご勝手に。」


とまた冷静に返される苛立ちがピークに


「お前ら赦さないからな!!!」


と怒鳴る事しか出来なかった。


すると彼氏が


「こちらは、浮気についての

慰謝料を請求させて頂きます。」


と告げられた。


???男は混乱した?

浮気だけで慰謝料?


「こちらは、結婚の約束をしていました。

両方の両親にも挨拶を済ませ

正式に婚約した状態にありました。

しかし今回の件により

婚約を破棄する事になりましたので

精神的苦痛、結納等の金額などを

請求させていただきます。

後日、弁護士の方から

書面が届くと思いますので

そのご連絡です。

お逃げになられても困りますので

あなたの会社にも

書面と連絡は、先にさせていただいております。

ご実家の方はご自分で話しますか?

もし嫌であれば

こちらで送らせていただきます。」


実家まで?


「失礼ながら興信所の方に

調べて頂きました。

明日、郵送させて頂きますね。

では後日よろしくお願いします。」


と一方的に切られた。


有給を取って

家にいてもこれなのか。

男は考える気力がなかった。


元々持て囃されて

口が上手いだけの男だった。

だから能力自体はあまり高くなかったのだ。


「なんなんだよ」

「どうすればいいんだよ」


まだ自分の過ちに気付かない。


会社から連絡がきた。


「取引先の御子息の婚約者を寝取るとは何事だ!!

お前のやった事で会社でも大騒ぎだぞ!!

後日、話し合いが行われる予定だったが

すぐにでもいいとおっしゃってくれた!!

今から迎えに行くから

着替えて待っとけ!!

絶対逃げるなよ!!!」


普段温厚な上司から怒鳴り付けられて

更に弱っていく。


逃げる気力もなく呆然としていた。


上司が到着し

無理矢理着替えをさせられ

タクシーに押し込められた。


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