第12話

「慰謝料請求してやる」


と男は、風俗店のあった場所に向かったが

もぬけの殻だった。


違法風俗店だったのであろう。



その帰り道

男は、

一人愚痴りながら歩いていた。


「俺が何をしたって言うんだよ!」

「あの店の奴を見つけたら

絶対訴えてやる!」

「会社も周りも俺のサポートをすれば

もっと上手く行くんだよ!」

「俺の実力はこんなもんじゃない!」

「絶対後悔させてやる!」


などと、

訳の分からない事ばかり言っていた。


ふと道路の反対側を見た。


本当に偶然だった。


彼女がいたのだ。


「あいつ…やっと見つけた!」


そう思い走り出そうとした時


彼女の隣には男がいた。


立ち止まり良く見てみると

手を繋いでいた。


急いで反対の歩道に渡り、

待ち伏せる事にした。


徐々に近づいてくる彼女は、

とても美しかった。


自分と付き合っている時よりも


着ているものとか、

そう言ったものではなかった。


自然体で、

ただ見惚れてしまうくらいに。


「こんなに美しかったのか…」


と、嘆いてしまうくらいに。


そのまま声をかけようとしたが

気が付かれることもなく

隣を通り過ぎて行った。


ショックだった。


男には、気付かずに

通り過ぎて行った事だけではない。


自分より

顔も、スタイルも、

良くないような男と

手を繋ぎ、

幸せそうに

頬を赤らめ歩いていた事がだ。


「俺の方が絶対にいい男だろ!」


急いで追いかけたが

もう見つける事は出来なかった。


本当に救えない男だ。


自分に気付かなかった事よりも

相手の男が

自分より下だと思って見下し

その男を選んでいる

彼女の見る目に対して

そう思っている事が…


歪み切ってしまったのかも知れない。


もし歪みを治したいので有れば

底辺まで堕ちるなら堕ちた方が

治せる。


底まで堕ちれば

上がるか

リタイアするかしか

選択肢が無いのだから


中途半端に堕ちると

まだ自分より下がいると

自分の方が上だと

思ってしまう。


プライドなど捨ててしまえば

変われたかも知れない。


だが最後まで男は

プライドにしがみ付いてしまった。


変われるタイミングはいくらでもあった。


この男は未だに一度も


謝罪をしていないのだ。


感謝もしていないのだ


謝罪・感謝をすれば変わると言う訳ではない。


只、変われる切欠には、

なっていたかも知れない。


たらればかも知れないが

謝って許してくれる人もいる

感謝すれば喜んで今くれる人もいるのだ。


人はきっと

中途半端に堕ち続ける方が、

苦しむ。


それが、長ければ長いほど


この男の苦しみは、

まだまだ続くかもしれない。


もしかしたら、死ぬまで

堕ち続けるかもしれない。


過去の栄光に、縋り続けるかもしれない。



男が、この先その事に

気付く事があるかは、わからない。



それに気付いて

いい方向に向かって

生きて行って欲しいものだ。



きっと変われない事はないのだから…







結婚を考えていたけど…

シリーズは、完結となります。



すれ違って、トラウマを抱えてそれでも…

と、言うタイトルの長編を書いています。


そちらも、宜しくお願い致します。


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結婚を考えていたけど… 後日談 同期の男編 ya_ne @ya_ne

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