愛憎と二人をつなぐ金魚鉢

寂しげで退廃的な世界観と嫌悪感を煽る小物の描写が、独特の生生しさを産み出しています。

一貫して重要なメタファーとして描かれている金魚鉢。

このメタファーの正体を探りながら読み進めることになりました。

純文学的で心情を想像させられる良作です。

以下考察

血の繋がらない兄と弟の間にあるのは金魚鉢の凸面ような歪んだ隔たり。

金魚鉢の示すメタファーは水中と陸という交わらない世界の境界線かもしれない。

二人は互いに全く異なる世界を生き、相手の世界に興味を抱きながらも、境界線を踏み越えることなく、自分の生き方を貫くことになる。

特に弟は兄に対する強い感情を抱えながらも、その正体には気付いていない。あるいは見てみぬふりをしているのかもしれない。

金魚鉢は弟が自分の心の奥底に潜む内面と対峙しない限り、割れることもなく、兄の頭に居座り続ける気配を湛えている。

兄の身体に時間的な限界が来ることを暗示しながらも、時が来るまで、弟は金魚を買い足し続けるであろうという結び方が、またまた退廃的でなんとも感慨深い。

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