首を落としたはずの兄が、金魚鉢を首がわりにして起き上がってきたお話。
あまり仲がよくない、というか最終的に殺害に至るほどの関係であった、とある兄と弟の物語です。
起こっている出来事は非常に非現実的なはずなのに、びっくりするくらいファンタジー感がないのがとても好き。
頭が金魚鉢になる、という一点を除いて、描かれているのはあくまで現実的な普通の田舎の光景。
あるいは、金魚鉢もなんらかの比喩や幻覚ではないかと思わされてしまうほどの、重厚で堅実な読み口が魅力です。
いわゆる「異形頭」というものだと思うのですけれど、独特なのはその生っぽさというか血肉の感覚。
頭を落としたところにくっついちゃった金魚鉢。当然元の生首やそれを落としたときの汚れなんかは残っていたりして、どこかホラーにも似た独特の迫力があります。
頭が金魚鉢になってのち、つまり喉なんかないのに「えづく」シーンがあるのも特徴的。
描かれているのは兄弟の関係性やその距離感なのですけれど、普通なら一番肝心であろうはずの「殺害に至った理由」が、しかし最後まで明かされないところも印象深いです。
彼らの仲は決して良いとは言えないと思うものの、さりとて殺すほどの何かは見当たらず、また当の兄自身がその疑問を口にしかける(つまり彼にすら身に覚えがない)場面があるところ。
語られない核心。しかしその周りにまとわりつく現実だけでも十分胃の重くなる、にがく苦しい読み味が楽しい作品でした。