第4話 帰路
「エンスト?! ヤバッ……」
「――何やってんだよッ!」
「『押し掛け』するッ! ギアをニュートラルに……」
「えっ――なんて?」
何度もキーを回し続ける僕を見かねたユウスケが、ドアレバーに手を掛けながら叫ぶ。外から車を押しながらだとエンジンが掛かりやすくなる事を知らなかった僕の声に、イラついた様に振り返る。
「――だから、ギアを外せって! 俺が外に出て押すから……」
「ダメだッ、出ちゃいけないッッ! ……連れていかれるッッッ」
タイチの悲痛な叫びにドアレバーから手が離れる。
「連れて行かれるって……誰にだよ」
「――鳥居から無数の手が……伸びて来てるッ! 今、外に出たら確実に捕まるぞッ、早くッッ……早く逃げろっッッ」
タイチはムードメーカーだ。ここに来るまでの道中も笑える冗談を言ったり、常に気分を盛り上げてくれた。
けれど今、目の前のタイチは明らかに尋常じゃない。肝試しの雰囲気を作り上げてやろうとか、そんな余裕など微塵も感じられない顔色の悪さと汗の量。
――僕には見えないけれど、確実に『良くないモノ』が、僕らを引き
切り返した末に車の背後にまわった鳥居へと目玉を
「ヤバいッ捕まったッ――引き込まれるぞ!」
「――は、早くッ、早く逃げろッ!!」
「わわっ……掛かれッ、掛かってくれッ!」
見えない恐怖に皆、完全に呑み込まれてる。
想像力だけは豊かな僕は、窓の外から誰かに見られている様な気がして身体の奥底から震えが沸き上がって来る。
窓に両手をついてピタリと張り付き、物色する様に車内を眺める黒い影と目を合わせない様、キーを回す事に集中する。
何かに突き動かされるようにキーをまわし続け、やがてエンジンが掛かると坂道を転がる様に僕らの車は走り出した。
坂だからスピードは出せる。けれど右側は崖だし、対向車にも注意しなければならない。僕は神経をすり減らしながら、間違いなく今日一番の速度で大通りへと飛び出すと、家路を目指してひたすらアクセルペダルを踏み続けていた。
※
「……じゃあな」
「……ああ。タイチの事、宜しくな」
現場よりはマシとはいえ、
帰路についた僕の心を占めていたのは、果てしない疲労と後悔だけだった。あの鳥居のそばで感じた視線も未だに感じるし、鳥肌も立ちっぱなし。早く安心したかった。
家の明かりを前にして大きなため息が自然と漏れる。それと同時に、はらぺこだったことに気がついて僕は口を歪めた。
「そういや……バーベキュー食べたことになっていたんだっけ。クレハになんて言おう……」
言い訳を考えながらゆっくりと玄関の戸に手を掛ける。すると中から、ドタドタと誰かが走り寄って来る気配がしたと同時に、ガチャリと玄関のカギが降ろされた。
「――何でッ?!」
「入って来るなっ」
クレハの鋭い声に一瞬気圧される。
「ちょっ、僕だよッ! 分かるだろクレハ。開けてくれよ」
ガタガタと閉め出された戸を揺する。けれど、僕の声を聞く間も無くクレハは家の奥へと戻って行った。
僕は血の気が引くのを感じていた。あの怒り様……もしかして、ユウスケの家から電話がかかって来て、心霊スポットに行ったことがバレた?
そんな事を考えているうちにドタドタと誰かが戸に近寄り、ガチャリとカギが外される。
ホッとしたのも束の間、僕は玄関から出て来たクレハに両手で突き飛ばされ、暗い外へと追い出されてしまう。
「――何するんだよ……ウワッ、何だコレッ」
「……兄貴は『わるいモノ』を連れて来たっ」
ピシャリと後ろ手に玄関の戸を閉めたクレハは、僕に向かって白い粉の様なモノを叩きつける様に投げて来た。
「なんだそれ……塩? 」
クレハは問いに答えることなく、僕の足元や背中、肩や頭の上など、全身に塩を振りかけて来る。やがて車へと視線を移すと、その周りにも同じように愚痴をこぼしながら丹念に塩を
「まったく……厄介なものを……」
クレハはそうつぶやきながら、車の全周に塩を撒き終わると睨みつけて来る。僕は気圧されながらも口を開く。
「その……ゴメンよ、ユウスケの家から電話、来たんだろ?」
「……電話なんて来てないよ」
「え……じゃあ何で怒ってんの……?」
「……兄貴、わかんないの? 」
険しい表情で白い車を指差しながら、クレハは僕に言い放つ。
「――この車の外装一面を、
妹に吐いたウソの顛末 道楽もん @dokodon
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