文学、特にファンタジーの世界ではなぜか避けられがちな「経済」というテーマに真っ向から挑んだ、他に類を見ないユニークな小説です。
戦争と国の荒廃を背景に、木材の商売で一山当てようと画策する若い女性リツと、その護衛として雇われたタルワールの物語。
一見か弱い女性が戦争を背景に商魂たくましく活躍する話は、ブレヒトの『肝っ玉おっ母とその子どもたち』を思わせますが、この物語は終盤にアッと驚く仕掛けが待っています。
剣や魔法が無くても経済×地政学の知識によってこれ程壮大な心踊る冒険を描ける事を再確認させられます。
と同時に、現在の社会情勢に関連して深く考えさせられる物語です。
中央アジア圏という、ファンタジー小説ではやや取り上げられる事の少ない地域の、歴史や政治、文化にも興味を掻き立てられる作品となっています。
読了後です。
経済、商売の話となると重苦しくて難しいというイメージが先行してしまいますが、この作品はそのイメージを見事に払拭してくれます!
まず、キャラたちとプロットが緻密に練られているところです。
実際に手に取っていただけると分かるのですが、経済という扱いが難しいテーマを分かりやすくまとめ、謎解き要素なども取り込んでおり物語として非常に面白いです。
キャラたちも親しみが持てて繰り広げる読み合い、時折見せるギャップがとても好きになれます!
更に、著者が抑えている分野の広さに舌を巻きます。
歴史学から現代の問題に芸術、地政学と幅広い分野の知識が登場して読み手を飽きさせませず、他の分野にまで興味を引かれ、作中の随所からもその裏付けを感じることが出来ます!
兎にも角にも是非一読ください!!
本作で描かれる物語は、戦争で荒廃したシルヴァン王国まで復興の資材たる材木を輸送する、可憐な面差しをした妙齢の女商人リツと、その護衛たる元騎士タルワールの、わずか数日の旅です。
ところによっては、冒険者なり何なりが成り上がるまでに引き受けたささやかな依頼、物語のワンステップくらいのエピソードとして終わってしまいそうな筋立てですが、本作におけるこの輸送は、言わば「旅を始めるまでに積まれたもの」の、その結果。
地政学・先物取引・信用取引・金融エトセトラ。
作中世界における、現代のそれをモデルとした「経済」「政治」の有様が複雑に絡み合い、「いかにしてその状況が組み上がったか」「なぜ材木の売買が儲けに繋がるのか」「そこにいかなる利益と損失が発生し、陰謀が張り巡らされる理由となったのか」――といった分厚い下地が形作られたそのうえに、前述の「材木を運ぶ旅の物語」という短い日々の中での、キャラクター同士の交流、人間模様が描き出されています。
知識がなければ書けない物語です。
知識に裏打ちされていることと物語が面白くあることは必ずしもイコールではありませんが、本作の筋立ては、知識なくして成り立たない、仮にそれなしで成り立ったとしても上滑りする陳腐なものとなりかねない、そうした類のしろものです。
知識に裏打ちされることと物語が面白くあることはイコールではないと先に言いましたが、それでもやはり、知識の裏打ちによって成立する物語の面白さというものは確かにあるのです。
本作は、そうした物語のひとつであるでしょう。
そして、それらのうえに組み上がる、目の前の事象すべてを商機として見定めんとする冷徹な合理性と、自身にとっての最大利益を希求する貪欲さ。
それらを下敷きにしながら上澄みのように描かれる当たり前の人間らしい情や脆さ、商人としての顔とは裏腹の少女のようなもの慣れなさと、見ようによっては偽善めいてすら捉え得る不完全さの、なんと芳醇なことか。
もしほんのささやかでも琴線に触れるものが感ぜられたのであれば、是非に。
国家を巻き込み商業ギルドを震撼させる罠がそこにはあった。
この異色のファンタジーの戦場は政と商の盤上、商売上の何気ない一言が呪文のように現実に甚大な影響を与える世界。
可愛い顔をした妙齢の女性リツは、しかしそんな麗らかな外見を他所に、大きな商取引に出る。
命を狙われるほどのひりついた駆け引き。交わされる不穏な言葉。
そんな彼女に付き添う騎士タルワール。その腕のほどは、読み進めて行けば自然と分かります。
徐々に気持ちが通い、認め合い、なのに互いに何かを隠している、そんな緊張感が漂う旅路。
読み進めるうちに引っかかりを感じていた部分から大きな舞台裏の世界が垣間見え、やがて読者の想定を上回る大きな筋書きが開示され、引きずり込まれるでしょう。
森を通って、木材を売りに行きます!本作はその3日間の商いと陰謀の物語。
旅路で手料理を振る舞ったり、相手の言動に心をときめかしたり、意地をはってみたり、淡い恋心が生まれたり。
ミステリーのような伏線に満ちたプロット、難解な用語や概念には作者様の丁寧な説明がついて賢くなれて。
普段は縁遠い中東ベースの料理や美術品の描写が読者を楽しませてくれます。
知的な商の駆け引きと、純な少女の恋模様が同居する本作、興味をもたれたら、手に取って見てはいかがでしょう?
名の知れた女旅商人リツと護衛のタルワールの冒険譚です。
しかし普通のファンタジーのようにモンスター退治や危険なダンジョンがメインというわけではなくお金、すなわち経済の仕組みを重きをおいて冒険が進みます。
貿易や先物取引、契約の駆け引きなどお金に関するスリルやワクワクが詰まっています。
内容が少し難しめところもありますが、そのぶん文章は読みやすく、解説を入れるなど上手に工夫して書かれています。
経済は人の生活において切っては離せないもの。
その経済の知識が楽しみながら学べます。
流行りばかりあふれがちですが、こういったファンタジー小説と出会えるのもネット小説の醍醐味だと思います。
内容が一風変わっている優れたファンタジーをお探しの方には、ぜひオススメです!
読者諸兄姉の諸君、御機嫌よう。
今回御紹介する作品は『異世界ファンタジー』となっているが、モンスターや異能は一切出て来ない。
だが御安心を。
本作の主戦場は、商人達が繰り広げる頭脳戦にあり!
ウェブ小説では、商品売買を主軸とした物語など先ず御目に掛かれないだろう。
その珍しい本作であるが、専門的な知識は一切不要だ。
度量衡の単位は現代のものに置き換え解り易くされているし、ストーリー展開と共に詳しい解説も入る。
恋に恋する女性主人公なので、御堅い雰囲気もまるで無し。
かと云って描写が雑なわけではなく、商人達の繰り広げる闘いは読みごたえたっぷり。
おまけに地政学、宝石などの知識も身に付くとあっては、自らも作品を執筆されている読者諸兄姉にとって大変益があるのではなかろうか。
そして本作を読了後は、一端のコンゲームを描ける様になっている事だろう。
※前回のレビューの続き
よしっ!
サントリーの『白角・期間限定復刻版』の価格調査を終えたぞ。
自分が買った時は確か、税込価格1400円ぐらいだったよな。
それが今じゃ、税込価格3000円以上になっているじゃありませんか!
グッヒヒヒヒヒヒ……これは笑いが止まらん。
確か……近所のコンビニなんかにまだ置いてあった気がする。
それを買い占め一定期間寝かせて値段を吊り上げ、そして転売で大儲けだ~~~~~~~‼
と云う事で、先ずは祝杯を挙げるとしよう!
あ、『白角・期間限定復刻版』、開けちゃった……。
この後、近所のコンビニ、スーパー、ドラッグストア、酒屋全てを回ったが、私が『白角・期間限定復刻版』に出逢う事は終ぞ無かった。
私に商人(転売ヤー)の適正は無い様である。
トホホ……。
読み始めると、まず個性の強い美少女主人公(二二歳)が登場し、キャラクター小説かなと思わせます。舞台は架空の世界。イケメンな騎士と出会い、二人で旅をする中で何度もときめきます。ここまでなら普通の物語なのですが。
序盤を過ぎると、いよいよメインテーマである経済が語られ出します。それも「取り入れてみた」というレベルではなく、完全に経済ものになります。また地政学や戦争、アジアの料理や芸術についても語られており、作者様の知識量の深さと、それをファンタジーに落とし込める力量にただただ驚かされるばかりです。
特に詳しく取り上げられているのが「先物取引」についてです。予備知識のない人でも読み進めるごとに理解が深まるように、丁寧に書かれています。
こんなに実社会の知識を与えてくれる異世界ファンタジーってあるでしょうか。
加えて人物、できごとが、最初から最後までモザイクアートのようにきっちりとはめ込まれているため、終盤ではタネ明かしの爽快感も味わえます。
途中まででも「勉強になるなあ」と感じること間違いなしですが、読み始めたらぜひ最後まで読んでほしい作品です。
これぞリアリティのある異世界の旅!
商才に長けた自称少女のリツと、護衛の騎士タルワールが、ときにハラハラ、ときにキュンとする冒険の旅を繰り広げます。
テンポのいいストーリーの中にも、歴史背景や経済といった事情がうまく盛り込まれているので、何のために危険を冒して旅をするのか、という冒険の理由に説得力があります。
さらに、野営したり、料理を作ったりという冒険の過程も丁寧に描かれていて、臨場感があります。
「きっと、この世界の商人たちは、こうして旅したんだろうな」というリアリティを感じて楽しめるのは、冒険小説の醍醐味。
中盤までの感想になりますが、最後まで読むときっと得られるものが多いと思うので、じっくり読み進めていきたい作品です。
「メインセンテンスは経済」そうあらすじの冒頭で語られるこのお話―――。
思わず腰が引けそうになりますが、忌避したくなるお勉強小説ではないことをまずお伝えしなければなりません!
主人公は腕っぷしに自信が有るわけではない、自称(?)美少女な経済観念に明るいリツ。彼女が経済について解説するのかと言えばそうではなく、彼女の行動原理が経済学や地政学に基づいているのです。
彼女が取引しようとする品物がなぜ木材なのか……そんな些細な小道具にもしっかりとした背景が、世界情勢の解説とともに分かり易く記されます。彼女自身もしっかりそれを理解している才女!
けれど商魂逞しいひたすら強かなヒロインかと思えば、商品運搬で狼に襲われ、普通の女の子らしく命の危機に震えます。
けれどそこで頼りになるイケメン護衛、タルワールの登場です!手に汗握る、説得力ある戦闘描写にワクワクします。
経済のお話も勉強になりますが、冒険譚らしい戦闘シーン織り込まれ、ラブ要素も絡んで来る素敵なエンターテインメントになっています!
勉強とエンタメを両立した目から鱗のわくわく体験!是非どうぞ!