第4話 帰り道

 部活が終わり、帰る前にウサギを少し見ようと私は、一人でウサギ小屋のある体育館裏へと向かった。するとそこには、今まで何度も見たことのあるメンツが揃っていた。


「あぁー!やっぱり。部活終わった後ここ来るって聞いたんだよねー」

「何?可愛い子ぶっちゃって。蒼馬君に気に入られてるからって調子乗らないでよね!!」

「いつも言ってるのに、まーーだわかんないのかなぁ?私達だって、こんなこと何度も言いたくないのよ?..........ねぇ、なんか言ったらどうなの!!!!」


 この先輩達は一年生の時からいつも私が一人の時に突っかかってくる。その度私はただ縮こまることしかできなくて、何も言い返せない。それが気に食わないのか、先輩達は怒鳴り声を残していく、というのが流れになっていた。

身体的に傷をつけられることはないため、今日もいつものように流しておこう、と思っていた。


「芽華。」


その時、聞き慣れているようであまり聞かないその声が聞こえた。


「か.....い.....??」

「帰るぞ。」

「う、うん.....!!」


それだけ言って黙って歩き出した海の背中を、戸惑いながらも私は笑顔で追いかけた。

 



「先に、帰ったんじゃなかったの??」


しばらくして、斜め前を歩く大きな背中に聞いてみた。


「....................。」


やっぱり答えてくれないか、と諦めて私は黙っていた。そんな帰り道はとても静かで、なぜかすごく落ち着いた。こんなに凪いだ気持ちになるのは、いつぶりだろう。


「忘れ物、しただけだから。別にお前を待ってたわけじゃない。」


もうすぐ家に着くという頃、海がぽつりと独り言のように呟いた。

とっくのとうに空はもう暗い。忘れ物を取りに行ったとしても遅すぎる時間だ。不器用さが目立つぶっきらぼうな言葉に少し心が波たった。


「ありがと。」


潤んだ目や弛んだ頬を見られたくなくて、私は小走りに海の横を通り過ぎた。

一度だけだったけれど、初めて海が私のことを名前で呼んでくれたこの日を、私は一生忘れないだろう。



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愛され天使と孤独な義弟 雪蘭 @yukirann

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