第3話 先輩

「よりにもよってお前と同じクラスだなんてな。」

「あらら〜。かい、そんなにお姉ちゃんと同クラになれて嬉しい??」

「....................。」


あれ?ついに無視されるようになってしまった.....。そんなに嫌なんかなー。そこまで構ってるつもりはないんだけど.....。

先生方が気遣ってくださったのか、私たち姉弟は同じクラスになった。最初知った時は、すっごく嬉しかった。嬉しかったんだけど.....、それはつまり、私の「天使」呼びが海にもバレるということだということに気づいた時には嬉しさよりも羞恥心の方が勝った。

 お兄ちゃんは、家の中ではあんなに妹溺愛シスコンを爆発させてはいないため、お兄ちゃんのに入らない限りはその"通り名"が海にばれる可能性はない。

それに、お兄ちゃんが海と話しているところを見たことはなかったから、つい油断していた。

だけど同クラになって一ヶ月が経とうとしている今、流石にそれを海にも知られてしまっているということは言うまでもない。


「海、今から部活あるから今日は先帰ってて!ごめんね。」

「あ、そ。別に。清々するわ。」


 そう言うと海は、こちらには目もくれず、ずかずかと先に行ってしまった。もしかして、嫌われてしまったのだろうか。この一ヶ月間、なんだかんだと言いつつ一緒に帰ってくれていたから、嫌われてはいないと思っていたけれど、それは違うのかもしれない。そう思うととても心が痛んだ。




「こんにちは〜!!」


沈んだ気持ちをかき消すように、まだ誰もいない体育館に向かっていつもより大きな声で挨拶をする。そうすると、心にかかったモヤが少し晴れた気がする。思いっきり運動して、思いっきり汗をかいてこの気持ちを吹き飛ばそうと、私は気分を新たに自主練に励んだ。

ただひたすらボールを打って、打って、打ちまくる。それだけで、先程まで悩んでいたことが嘘のように心が澄み切る。


芽華めいかちゃん、今日も、早いね.....!!」

神原かんばら先輩!!こんにちはー」

「ねえねえ、そろそろその苗字呼びやめなーい??芽華ちゃん、兄貴のことは君付けなのに、僕にはつれないじゃないか。僕は、君のことが.....」

「こぉら!神原!!!!!めいちゃんを、お前には渡さん!!!!」

堀内ほりうちー、邪魔すんなよーー」

「可愛い可愛いめいちゃんを神原の毒牙にかけることなんてできないからね!!神原のせいで泣いた女の子を何人見てきたと思ってんの!?」


神原先輩は暁人あきと君の弟で、私の部活の先輩だ。学年成績上位の実力や、バレー部でエースを務める程の運動神経の良さ、そして二次元から出てきたような整った容姿と、暁人君の弟とは思えないくらいのとてもキザな性格も相まってか、学年を問わずかなりモテているらしい。

この学校の女子の中で、そんな神原先輩を唯一叱り飛ばせる逸材が明心あこ先輩だ。

従兄弟という関係性からか、神原先輩も明心先輩にだけは素を出せているように私には見える。いつも喧嘩らしきものばかりしているけれど、なんだかんだ仲がいいんだよねー。


「めいちゃん、大丈夫??あのからは私が守ってあげるからね!!」

「あ、ありがとうございます、明心あこ先輩!!」

「かっ、可愛いっ!!!!ねえねえめいちゃん!!うちの子にならな〜い!?!?!?」

「堀内、それはまじでキモい。」

蒼馬そうまも明心ちゃんのこと言えないよ?」

「兄貴!?」

「暁人君!?」


見事にハモった。


「蒼馬だって芽華ちゃんに構いすぎだよ?成翔なるとも気にしてた。」

「知ってますよー。でも、は諦めないから。というか、兄貴だって..........」

「さ、なんのために僕がここに来てると思ってるの?今日は放課後用事あるって言ったでしょ?」

「あっ、そうだった!!」

「いつも蒼馬がごめんね、明心ちゃん。芽華ちゃんも。成翔抑えられてなくて。苦労すると思うけど、頑張ってね。」


暁人君はそう言って、いつもと同じように私の頭をぽんぽんと撫でてくれた。暁人君と話していると、とても落ち着く。その心地よさに身を委ねる、ほのぼのとしたこんな時間が私はとても好きだ。


「それじゃあ、またね。」


笑顔の暁人君とは反対に神原先輩は無言で、なんともいえないような顔をして暁人君の後ろをついて行った。

嵐のように去って行った二人の話を私は明心先輩としばらくしていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る