第2話 お兄ちゃん

 海たちと家族になって早一ヶ月。私ももう、今日から中学二年生!

満開の桜のトンネルの下は、何度通ってもやっぱり新鮮だ。

ただ去年とは違って、ムスーっとしたかいが後ろからついてきている。


「そーんなにムスーっとしちゃって。綺麗なお顔が台無しですよー?」

「うるさい。はぁ。なんでこんな奴と同じ学校に通わないといけないんだよ。」

「なーあにぃ?それは愛情の裏返しかなぁ??」

「は?俺は一人が好きなんだよ。じゃ。」


そう言うと海はさっさと私を抜かして行ってしまった。せっかく可愛い可愛い弟と一緒に登校できると思ったのに、残念。

まぁ、とりあえず..........、


「お兄ちゃん?いつまで付きまとうつもり!?!?!?!?!?」

「ひぇっ!?め、芽華めいかっ!!気づいてたのか??」

「当たり前でしょ!!ていうか、いつもそうじゃん!!」

「可愛い妹に変な虫が付かないか見張るのは兄の役目だ!!」


ふんっ!というように腕を組んで、兄はなぜかさも当たり前かのようにうんうんとうなづいている。

いや、そんなにドヤ顔決められてもさ..........。


「もう中二だよ!?ちっちゃい子じゃないんだから、私のことは放っておいてよね!!」

「うぐっ。そ、そんなぁ、芽華ぁ〜!!」


あんな兄なんかに付き合ってる暇なんかない!と兄がダメージを受けている内に私は歩き出す。「芽華〜!置いて行かないでくれぇ〜」なんて情けない声も聞こえてくるが、無視だ。今頃きっと、無理やり付き合わされてる暁人あきと君が兄をひきずって学校に連れて行ってくれているだろう。

暁人君、神原かんばら暁人君は兄の幼馴染で、私も小さい頃からよく知っている。小動物みたいな可愛い見た目に反してとても頼りがいがあって、私にとって年上のお兄さん的存在だ。


「芽華ちゃん!行ってらっしゃい!!」


少し後ろを振り向くと、暁人君は笑顔で私に手を振りながら予想通り兄の首根っこを掴んでいた。



少し錆びた大きな門をくぐると、次第に周囲のざわめきが聞こえるようになった。クラス替えを見た時の反応は人それぞれで、声なんか聞かなくてもその表情を見れば、その人にとっての新しいクラスがどんなものだったか、だいたい予想がつく。

一人一人のそんな表情を見て想像することが、私の新学期の楽しみだったりする。ひっそりと木の影に隠れながら一通り見て、飽きてきたら自分のクラスをさっと確認して新しい教室に向かう。


がらがら、と立て付けの悪いドアを開けると、ぱあっと目を輝かせて新しいクラスメイトがこちらに駆け寄ってきた。


「ねえねえ!!小倉芽華ちゃんだよね!?!?私、ずっと話してみたかったんだ!!よろしくね!!」

「こちらこそ、よろしくね!」


私が返事をすると、教室中が歓声でいっぱいになって、口々に「よろしく!」と言ってくれた。とりあえず一安心。


 私が席に着いてからもそのざわめきは収まらず、いろいろなところから「かわいい〜」とか「天使〜」とか言っている声が聞こえてきた。だけど、それは違う!!!皆さん!ほんとにやめて!!!

いや、確かにね、かわいいって言われることは嬉しい、嬉しいんだけど恥ずかしい!!でも、天使って言うのはほんとにやめて!!!絶対兄に洗脳されてるよね!?!?


 お兄ちゃんは優しくて、妹の私から見てもとてもつもなくかっこいい。だけど狂気的な妹溺愛シスコンのせいで今まで彼女どころか、告白されたことすらないらしい。

小学校の時には、ちょっと私が同級生の男の子と話していただけでその男の子を威嚇していたり、近所の人たちに裏で私がどんなに可愛いか力説していたりと、妹溺愛シスコンにも程があると本当に思う。

さらに最悪なことは、変に頭がいいせいかお兄ちゃんの話術はとても優れているらしく、たくさんの人にその話を鵜呑みにさせることだ。

そんなお兄ちゃんの影響か、いままで友達らしい友達ができたことがない。


「はぁ。どうしたらお兄ちゃんは妹離れしてくれるのかなぁ。」


ドサッッッ


「え..........?」


窓から物音のした方を見てみてみると大きな木の下で、高校へ向かったはずのお兄ちゃんが手にカメラを持ってうずくまっていた。


「なんでこんなところにまで来てるの..........?」


その声がお兄ちゃんに届いているはずはなく、微かに「め、めぃか..........」とすすり泣くような声が聞こえてきたけれど、私は恥ずかしさで頭を抱えていた。

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