「第三次世界大戦がどうなるのかはわからないが、第四次世界大戦で人々は石と棍棒を武器に戦っているだろう」といったニュアンスの言葉を、読後に想起する渾身の一作。
例え兵器がマシュマロに変わっても、殺意や憎悪がマシュマロに包まれても、我々はどこまでも人間であって、それ以上になることはできない。それを象徴するように人々は世界の変容に振り回されながらも順応し、いつしか異常が異常であったことも忘れていく。
世界はマシュマロのように甘くはない。例えあらゆるマイナスの感情がマシュマロに包まれたとしても、人々は心ある限り、憎悪という火を消すことができないのだから。
そんな世界に、主人公も抗うのではなくまた順応していく。青春というモラトリアムの中で、特別だったものをただ一欠片だけ胸に抱いて。
それがなにであったのかは、是非とも読者である皆様の目で確かめていただきたい。軽妙でありながら重たい不思議な読後感は、さながらマシュマロに包まれているようだった。
武器がマシュマロになる。
そこだけ見れば、突飛な設定かもしれません。
でもこちらの作品は、その設定をあくまで現実的に捌きあげている。
ゆえに、とても読みごたえのある作品です。
序盤の、武器がマシュマロを始めとした甘味になった世界。
訪れた平和を微笑ましく読んでいたら——
この微笑みが最後まで続かないところに、この作品の面白味があります。
武器がマシュマロになる。銃弾、凶刃、劇薬、戦闘機。そのすべてが。
とても良いことです。
では、どうして微笑みで終われないのでしょうか。
ここから先は、ぜひ作品の中で確かめてください。
読むのに使った時間を後悔させない名作です。
ある日を境に、世界中の弾丸がマシュマロになり #realmarshmallowbullet というハッシュタグがSNS上で流行り出す。
変わったのは弾丸だけではない。液状の兵器はジンジャエールに、気体状の兵器は綿菓子へと姿を変えていった。
一見すると平和の序章にも受け止められるその光景。
人を殺める兵器が優しい甘さのお菓子になるだなんて、まるで夢のような話だ。
もしかすると世界中から物騒な武器は全て消え、世界は平和になるのかもしれない——とここまでニコニコと読者は思いを馳せて読むのだろう。
けれど……ここから先がこの作品の最も凄いところ。
ふんわりと、まるでマシュマロのように描写されている日常の中の恐ろしさ、人間の持つ感情とその奥底に潜む悍ましさ。
それが柔らかく読みやすい文体で、しかし確かにそこに存在している。
読んだ後の余韻が途轍もない一作です。
アナタはこんな世界になったら、どう動く——?