百鬼回向
すらかき飄乎
百鬼回向
「百鬼
どうしてもあと二里は進まねば、今晩泊まるべき
道は
余は
泊めては
さう思つたところ、何時の
娘に促される
何でも、
御父つさんは今日は御山で御座います。あと三日もせねば、戾つては
娘によれば、余が今日
今朝から小鳥共がもう大騷ぎで御座いました。何時もは一口だに
娘は
御坊樣
奧に進んで
上ると表座敷と云ふ所に通された。
右手の
晩の
娘が云ふと、遠くでほうほけきよと啼いた。
あら
娘は小首を傾げ、唇の右端を
娘の
娘は赤くて細長い舌をぺるりと出すと、
娘がゐなくなつてみると、ほつとしたやうな、
唐紙は隨分と古い物で、曖昧な
御坊樣、御待たせを致しました。
今度は、五つ、六つ
膳には、はこべらだか何だかの
娘は
あとにはやはり
さうしてゐる內、何時の閒にやら夜も更けた。
さう云へば、
さうしてどれくらい寐たのであらうか。ふと、ぱち〳〵と
泡が彈けるやうな音は、婆さんの鼾に比べると
五寸位な大きさの田樂法師である。泡が彈けるやうだと思つたのは、どうやら
行かばや 行かばや
谷地の
疾くこそ行かめ
口〻に
鬼共は障子の隙から覗いてゐる余の方には目もくれず、わら〳〵と前の廊下を過ぎて行く。さうして、
其叔父とは、
叔父を斬つたのは余の兄である。
兄は十五、余は十三であつた。
叔父と兄とは碁を打つてゐた。
初めの內は互ひに笑つてゐた二人であつたが、何時の閒にやらに大きな
人を斬つたからには
さう云ふと、兄は其場で腹を切つた。
廿年が過ぎた今となつても、眉閒から血を流してゐる叔父の顏をあり〳〵と思ひ出す事がある。兄の胸をずぶ〴〵脇差が貫く
又、後日、家の座敷の障子に赤黑いものが飛散つてゐるのを見付けて、驚いて開けてみたら、黑く血を吸つた疊に折重つて父母が斃れてゐた。
幽鬼となつて今も
先刻の百鬼夜行の內には、或いは
余は田樂法師らが消えて行つた廊下の向かうに合掌し、せめて
眞言を六遍迄
行かばや 行かばや
谷地の
疾くこそ行かめ
喉が詰まる。
氣が付けば、天井や梁や柱はびり〴〵と震へ、奧座敷では婆さんがおん〳〵と
さうして、脊中の方で
御坊樣、宜しう御座りませうや。
頭の上から娘の聲が聞こえる。
小鳥が激しく啼立てる。沈香が香る……
<了>
百鬼回向 すらかき飄乎 @Surakaki_Hyoko
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