企画入賞レビュー「百合初恋vs過ぎ去りし時間」

同性愛を扱った作品は作者の価値観を前面に押し出したものが多く、その凄まじい熱量に読者が付いていけないケースもままあるもの。しかしこの作品はプラトニックな愛と過ぎ去った時の残酷さをテーマとしたものであり、そうした心配とは無縁である。
哀しいかな、三つ子の魂百までとはよく言ったもので。人間の本質は年齢を重ねてもそうそう変わるものではないのだ。そして、そうした本質を含めた上で「自分を愛してくれる」存在は人生において貴重なものであり、生涯忘れることのできない友達以上の相手。ましてやそれが初恋の人であるならば尚更であろう。
一方で流れる時の残酷さは多くのしがらみを生み、人生から自由な選択肢を奪い去っていく。無邪気な初恋が芽生えたあの「夏の海」に帰りたい。そう願ってもそうそう簡単にはいかないのだ。相手が死んでしまえば当然それは無理だし、よしんば生きていたとしても立場や年齢が変われば考え方が変わってくるのは至極あたりまえの事象である。
ああ、しかし、でも……それでも尚!

この作品はそんな過去と現在の対決と葛藤を描いた名作。
唐突で爆発的な熱量を叩きつけるのではなく、じわじわと高まっていく主人公のテンションがとてもリアルで感動的なのだ。同性愛作品でウルッときたのはこの作品が初めてであることも付け加えておかねばなるまい。
泣ける恋愛ものをお探しであれば是非。
皆が共感できる同性愛作品のお手本として、この作品が入賞であるべきかと。