第5話 襲撃



「結局、あれから一度も話せなかったなぁ」

『なんじゃ優一、もしやりーなとやらに惚れたのか?』

「そんなんじゃねぇよ」



 放課後、茜色の陽射しが通学路を照らす帰り道。俺は手に持った日本刀、黑鳴からの問い掛けに呆れながら返事を返す。


 今日の朝、教室で俺の席を通り過ぎようとした美少女転校生リーナが「見つけた」と声を洩らしたので一体どういうことか訊ねようとした俺。ホームルームが終わりいざ振り向いて声を掛けようとした瞬間、クラスメイトが一斉に押し寄せたのだ。


 今までどこにいたのか、好きな食べ物は?といった様々な質問攻めを喰らって「え、あの……っ」とリーナは目を白黒させていたが、その所為でその言葉の真意を訊くことは叶わなかった。

 「邪魔」「どけっ」「調子乗んな」とクラスメイトにその輪から押し出されてしまった形となってしまった俺だったが、ある意味榊原による告白を断った俺への関心がリーナに向かったのは僥倖とも言えるだろう。


 そしてそれは放課後になってからも続いた。俺は教室を出てこのように帰宅しているのでその顛末てんまつは不明だが、もしかしたら今でも転校生としての洗礼を受けているのだろうか。



『しかし優一、お主憂鬱だと言っていた割にはしっかりとあの場の雰囲気に馴染んでおったではないか。随分と楽しそうだったぞ?』

「そりゃ気の所為だ。リーナに関心が向かったから良いものの、もし彼女がいなかったら今頃俺は黒曜姫の告白を断った畜生以下の存在として腫れ物扱いだったろうよ」

『確か”うそこく”だったかの? 好いてもいないのに告白して相手の反応を楽しむだなんて、人間は奇異な遊びをするのぅ』

「言っておくが最低オブ最低な遊びだからな」



 危うく騙されずに済んだが、きっと何も知らなかったら俺はそのまま告白を受け入れていたに違いない。しかし、だ。



(榊原さんのあの表情……。なんか引っ掛かるんだよなぁ)



 もしかしたら俺の勘違いで、本当に彼女は俺に告白をするつもりだったのだろうか。でなければ教室であんなに悲しそうな表情は浮かべない筈だ。


 そういえば下駄箱に入っていた手紙には『大切なお話があります。放課後、学校の裏庭に来てくれると嬉しいです。榊原撫子より』と達筆で、それでいて丁寧な文字で書かれていた。今にして思えば心が込められていたような気がするし、向き合った際にも顔を赤らめてもじもじとさせていた。


 榊原の背後にいた女子たちも、温かく見守りながら実は彼女を応援していたとしたら辻褄が合う。


 俺は思わず冷や汗を掻く。

 早とちり、つまり俺の勘違いだとしたら。



「いや、いやいやいやいやいや」

『どうしたんじゃ優一? そんな頭を抱えて』

「なななななんでもねぇ」

『すごく動揺しておるの!?』



 榊原とは何回か話した程度だが、そこまで好意を抱かれるようなことはしていない。精々以前放課後に財布探しを手伝ったくらいだ。


 だがもし、もしもだ。昨日裏庭に呼び出されたのは嘘告ではなく真剣な告白だとしたら彼女には本当に申し訳ないことをしてしまった。断った手前今更やり直しなんて格好悪くて出来ないし、彼女が悲しそうな表情や気まずく思うのもショックを受けるのも当然である。


 告白なんて相当な勇気と覚悟が必要だ。あくまで嘘告じゃなかったらという仮定の話だが、もしそうだとすると女の子の告白を無情にも断った俺は最低ウジ虫クソ野郎ということになるだろう。



「……そういえば黑鳴、お前の認識阻害って自分だけじゃなくて俺にまで適用されるんだな」

『どうやらそのようじゃのう。今日のように大勢の中で一人が気付いてそれを指摘されれば解除されるようじゃな。妾も初めて知ったのじゃ』

「じゃあ、明日も頼む」

『うむ、わかったのじゃ!』



 黑鳴的には俺に頼られて嬉しいのだろうが、すまん。正直に言えば、榊原に会うのが気まずいからという超逃げ腰な理由なのだ。


 俺はロリ声で嬉しそうにそう返事する黑鳴に対し、極力視線を合わせないように顔を背ける。しょうもない理由で現実ではあり得ない特別な能力を使わせてしまう事にやや罪悪感を抱いてしまう。



「いやほんとごめ———」

『ッ、優一! しゃがむのじゃ!』

「———氷花の銃撃アイシクル・バレット

「え……っ、うおっ!!」



 突然黑鳴の慌てたような声が脳内に響いた瞬間、黑鳴を掴んでいた右手がぐいっと地面の方に引っ張られる。そうしてそのままバランスを崩した俺は地面へと尻餅をついてしまった。


 それと同時にパキンッ!!という氷の弾けた音が周囲に響き渡る。俺は驚きながらその音が鳴った方向———背後を慌てて振り返ってみると、アスファルトの地面が一部分だけ白く凍っており、その中心には氷の華が咲いていた。


 その光景を見た俺は思わず目を見開く。そしてサッと血の気が引いた。黑鳴の咄嗟の判断でバランスを崩していなかったら、おそらく脳天に直撃して死んでいた———!



『怪我はないか優一!?』

「は…え……っ? なっ、なんだよアレ……ッ!!」

「へぇ、威力を調節したとはいえ今のを避けるんですね」

「ッ……!!」



 訳もわからず動揺していると、突如上の方から凛とした少女の声が響き渡る。その透き通るような声は、つい最近聞いたような気がして。


 視線を上に向けると、案の定電柱の一番上に人影が立っていた。夕陽に染まっており人相ははっきりとはしないが、そのシルエットは長い髪と制服のスカートを靡かせている。



「……」



 やがて彼女は跳躍し難なく地面に着地。そうして俺の視界に映る彼女の正体を見た瞬間、俺の中に燻っていた既視感が明らかになった。



「リーナ・アンデルセン……!?」

「常盤優一さん、貴方———何者ですか?」













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