第11話 これからのこと
「……まず話を整理しようか」
「スィー」
「優一、もなかも出してくれ」
「俺一応病人な……? つーかなんで最中って知って……ってねぇし!!??」
立ち話もなんだったので、とりあえずリーナと黑鳴を部屋に案内してお茶を出しながらテーブルに座って貰う。とはいえ俺が入院している間も実はこの部屋で寝泊まりしていたようで、その所作には淀みない。
大量に買い置きしていたお菓子を俺が入院している間に実は全部食べていた黑鳴と一悶着ありつつ、後ほどスーパーに行く約束をする俺。やがてリーナから語られた事の次第は次のようなものだった。
「転校生、あんたはつい先日イタリアから日本に来たばかりで住む家がない」
「スィー。本来ならばこの辺りのアパートの一室に引っ越す予定だったのですが、どうやらその不動産では二重契約をしていたようでして。私の方が先だったのですが、別の方が引っ越してしまい住めなくなってしまったのです」
「うわぁ、最悪じゃん」
「そこで考えました。———そうだ、山で野宿をしましょうと」
「なんで?」
至って真剣な表情でそう告げるリーナに、俺は間髪入れず突っ込む。
雨風を凌ぐ場所で思いつくのはビジネスホテルや漫画喫茶、そして公園。ざっとこのくらいだろう。リーナは女の子で、しかも見目麗しい美少女だ。一定の安全性が確保出来る室内ならばともかく、何故よりにも寄って思いついたのが山だったのか。
もしかして金銭的な余裕がなかったのだろうか?
「キャンプというものに憧れてましたので、いい機会だと思いました。その後キャンプ用品を揃え、いざパスタを食べようとしたところ———突然、遠く離れたところに光り輝く祠が出現したのです」
「あ、それがきっかけだったんだ」
「そこで出会ったのが妾、という訳じゃ!」
祠、というのは妖刀である黑鳴が祀られていた場所で間違いないのだろう。まさかの思わぬところで話が繋がってびっくりである。そして黑鳴、腹立つからドヤ顔やめろ。
「そこで刀の姿の黑鳴さんを手にし元の場所に戻ろうとしたところ、いきなり何者かに襲われました」
「襲われたって……誰に?」
「……わかりません。真っ白な仮面とタキシードを身につけており、おそらく瞬間移動系の異能を持つ男と見当をつけてますが、その真意は不明です。その男も刀使いで、どうやら黑鳴さんを狙っていたようでしたが……あとは以前お話しした通りです」
「リーナがその男とドンパチしてる間に黑鳴が消えて、偶然俺が拾ったと」
「えぇ、そうです」
なんとも奇妙な話だが、この目で化け物やら異能やら非日常を目撃したおかげですんなりと事情を飲み込めている。
まだまだわからないことも多いが、この黑鳴との出逢いがこれから吉と出るか凶と出るか……。それは残念ながら神のみぞ知る、というやつだろう。それにしても仮面とタキシードを身につけた男……きっと正体を隠したいのだろうが、随分とあからさまに怪しい格好をする襲撃者もいたものだ。
「うん、本来住む場所がなくなった
「スィー」
「どうしてよりによって俺の部屋なんだ? 条件さえ選り好みしなければ、探せば空いてる部屋なんて結構たくさんある筈だけど……?」
「常盤さんが入院した際、保護者である
「マジかぁ……」
思わず項垂れるも、爽やかな笑みを見せながらサムズアップする朱乃義姉さんの光景が簡単に想像できる。
ズボンのポケットからスマホを取り出して朱乃義姉さんの連絡先に急いで電話するも、残念ながら繋がらない。どうやら圏外のようで、俺は思わず表情を引き攣らせた。
「繋がんないし……」
「そういえば現在外国にいて、これからジャングルの秘境に向かうので音信不通になると言ってました。ここ暫く忙しくなりそうなので帰ってこれないそうですよ? その間、貴方のことをよろしく頼むとも」
「マジかぁ……」
朱乃義姉さんがそう言うなら、そのことは既に決定事項だ。
彼女は明朗快活、天真爛漫、太陽の如く元気な明るい性格で、これと決めたらすぐに有言実行する行動力の塊である。地頭も良いのだろうが殊更自分の直感やセンスに頼る部分も多く、今回のリーナが同居する件もきっとその類なのだろう。
そもそもこのマンションの契約者は朱乃義姉さんだ。あくまでも俺は住まわせて貰っている立場なので強くは言えないが、知り合って間もない男女が同居する件についてはどう考えているのだろうか。
俺が顎に手を当てながらうーんと頭を悩ませていると、目の前のリーナはやや申し訳なさそうにしゅんと眉を曲げる。
「やはり、迷惑でしたでしょうか……?」
「ん、あぁいや、迷惑って訳じゃないんだが……その、性別の壁がさ……」
「私は平気です。こう見えて体術も会得してますし、いざとなれば縛り上げて……もぎます」
「何を!?」
「何って…………ナニですよ?」
「こっわ!!??」
こてん、と首を傾げながらその可愛らしい顔でこちらをじっと見つめるリーナ。その透き通るようなアイスブルーの瞳がやや狂気的に感じるのは俺の考えすぎだろうか。決して逆らわないようにしよう。
俺と暮らすのが平気なのは、おそらく価値観の違いというやつだろう。日本ではあまり考えられないことだが、外国ではハグやキスは挨拶的な意味合いを持つという。きっとそれと同じで、リーナは異性と同居することに抵抗がないのだろう。
確かにリーナはクールでダウナーな外国人美少女。いくら容姿が魅力的とはいえ、俺にも人並みの理性はあるので大丈夫な筈だ。美人など朱乃義姉さんで見慣れているし、そもそもリーナは異能者なのでたとえ襲っても返り討ちに遭うだけ。
まぁ同居生活にも次第に慣れていくだろう、と思いつつ俺は口を開く。
「わかった。それじゃーこれからよろしくな、転校生」
「ずっと気になっていたのですが」
「ん? どうしたんだ?」
「———リーナ、と呼んで頂けないでしょうか?」
「…………あ」
「その呼び方は、なんだか嫌です」
彼女に指摘されて改めて気がついた。リーナに出会ってから一度たりとも名前で呼ばず、転校生と呼称していたことに。
彼女はモブな俺にとって絶対お近づきになることはないだろうと思っていた外国人美少女。気恥ずかしさもあり、リーナのことを転校生と呼んでいたのだが、なんの因果か結果的にこうして一緒に同居することになった。確かにいつまでも転校生ではリーナも気分が悪いだろう。
「わかったよ、リーナ。これでいいか?」
「はい、よろしくお願いします」
そう返事をして、ふわりと笑みを浮かべるリーナ。その表情を見た俺は不意にどきりとしてしまうが、なんとか平静を保ちつつ取り繕うようにして言葉を紡ぐ。
「じゃ、じゃあ俺はこれから買い物に行ってくるから! 二人はゆっくりしててくれ」
「待つのじゃ優一、妾も一緒に行く!」
「ん、おうわかった」
「なら私も行きましょう。常盤さんはまだ戦えません、襲われでもしたら不安なので」
「んな大袈裟な」
「いえ、黑鳴さんを狙った襲撃者が契約者である常盤さんを殺しにくる可能性がありますので」
「初耳なんですけど!?」
リーナの衝撃的な言葉に驚愕してしまうも、彼女は平気な顔で「今初めて言いましたから」と言う。そのまま彼女は言葉を続けた。
「なので今度、黑鳴さんと一緒に力の使い方を覚えましょう。その方が常盤さんの身を守ることに繋がりますし、突然の脅威にも対処出来ますから」
「お、おう。わかった、よろしく頼む」
「早く行こうなのじゃ、優一、りーな!」
こうしてイタリアから転校してきた外国人美少女兼異能者リーナ・アンデルセンと謎の妖刀、黑鳴と一緒に同居することになった俺。
この出会いをきっかけに様々な戦いに巻き込まれて平穏が遠のいていくのだが、この時の俺はまだ何も知らなかった。
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どうもぽてさらです!(/・ω・)/
これにて出会いや戦いに巻き込まれるきっかけになった第1章のお話は終わりです。さて次は第二章……といきたかったのですが、流石に読まれなさすぎなので一旦ここで更新はストップさせて頂きます。
遅筆ですがこれからラブコメの執筆に戻りますので、是非見守って頂けると幸いです!!
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