第2話 黑鳴【クロナ】
「ふわぁ〜、ねっむ。学校行きたくねーなぁ」
『なら行かねば良いではないか』
「俺らみたいな子供は学校に行くのが普通なんだよ。……まぁ、行きたくてもいけない奴もいるけれど」
『ふぅん、そんなもんかのぉ』
ヘンテコな喋る刀と出会った次の日。自宅から出た俺はのんびりと高校へと向かっていた。刀を腰にぶら下げているのはどうしても慣れないが、
「なぁ
『ん? なんじゃ優一?』
「———結局、お前は一体なんなんだ?」
いつまでもヘンテコな喋る刀だと面倒なので、昨日自宅へ帰ると俺はこの刀に『
嬉しそうな様子だったものの、きゃんきゃんとやかましいから「鳴く」という漢字を名前に入れたのは秘密である。
ペットを飼った事がないので、何かに名前をつけるのはなんだか初めての感覚だ。不思議と身体が軽い。
『昨日も言ったじゃろ、知らん。何故かはわからぬが妾の記憶がないのじゃ。ただ一つだけ言えるのは……真っ暗で何もない、寂しい場所にずっといたということくらいじゃ』
「……そうか」
『すると一筋の光が差し込んで、何かに引っ張られて気が付いたらあの場所に居た。そうして優一、お主と出会った訳なのじゃ』
現状判明しているのは、ずっと閉じ込められていた黑鳴の前後の記憶が失われているということ。ちゃんと明確に意識が覚醒したのも昨日なのだそうだ。
そうしてまったく誰も人が通り掛からず途方に暮れていたところ、偶然俺と出会ったらしい。
(黑鳴の過去にいったい何があったのか、今のところこれっぽっちもわからねぇが……まぁ、なるようになるだろう)
彼女———黑鳴に関する手掛かりは全くないが、俺の勘がなんとかなると囁いている。
そもそも何故刀が喋るのか色々と不明な点も多い。しかしこのように一緒に行動する機会が多ければ、いつかきっと記憶を取り戻せる日が訪れるだろう。その時が来るまで、のんびりと普通の日常を謳歌でもしようと考えた。
「ま、高校では大人しくしていてくれよ? いくら透明になれるとしても、周りには生徒が大勢いるんだから頭の中で騒がれたらたまったもんじゃない」
『わ、わかっておるわ! いくら目覚めたばかりといえど、
「どうだか」
自分以外に姿が見えない———正確にいえば『他者の認識を阻害している』らしいのだが、どうやら黑鳴の能力のうちの一つらしい。
現在は幸いにも周りに人がいないから良いものの、何も知らない人が見たら今の俺はどう見ても独り言をしている変人だ。いや、例え刀が見えていたとしてもそれに話し掛ける男子高校生は大変痛々しい病に罹っているのだが。
それにしても刀なのに鞘から抜けなかったり能力なんて不思議な力を使えたり、どうやら黑鳴は普通のものとはどこか違う並外れた刀らしい。どこかの骨董商や研究所にでも調べて貰えば何かしら判明するのだろうか。もし珍しくて価値のあるものならば売るという選択肢も———。
『……むっ、今なにか変なことを考えなかったか優一?』
「ナンデモナイデス」
『何故カタコトなのじゃ? ……おっ、優一! あのぴこぴこはなんじゃ!?』
「あれは信号だ」
危うく俺の思考が読まれてしまうところだったが、なんとかバレずに済んだ。昨日から見るもの聞くものに好奇心旺盛な様子をみせる黑鳴に笑みを浮かべつつ、俺は高校へ向かったのだった。
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