いずれ辿る最強の神眼妖刀使い 〜喋る刀を拾ったら異能者との戦いに巻き込まれた件〜

惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】

第1章 出会い

第1話 ファーストコンタクト



「あー、今日もようやく終わった。家に帰ったら何すっかなー?」



 俺、常盤ときわ優一ゆういちは日本中に沢山いる普通の高校生の内の一人だ。


 朝早く起きて学校に通い、返却されたテストの点数で一喜一憂し、家に帰ったら配信者の動画を漁りながら心を潤す毎日を送るただのモブ顔な一般人。


 ———だからこそ、学校が終わり家に帰宅途中である俺がソレを見つけたのは全くの偶然だった。



「ん? なんだこの刀?」



 夕暮れに染まる道端に横たわっているのは一振りの刀。黒塗りの鞘に納められており、そこにはうっすらとした二本の紅い線が交差するように紋様として描かれていた。


 何故こんな場所に刀なんて物騒な物が落ちているのかと疑問に思う俺だったが、もしかして小道具か何かだろうか。


 そう思い何気なく手で拾い上げてみるも、重い。普通の日常では中々味わえない、ずっしりと重量がそれには込められていた。


 刀など一度も手にしたことのない俺だったが、まるでその刀は本物のようで。



「いやおっも。ふんっ……ふんぬっ! ……しかも抜けねぇし」



 柄を掴んで鞘から刀身を引き抜こうとするも、びくともしない。しばし腹に力を入れて力を込める動作を繰り返すが、残念ながら結果は同じで。


 別に力に自信があるというわけではないが、これでも一般人男性並みの力はあると自負していた俺。ここまでしても抜けないとなると普通にショックである。



「……ま、いっか。そっとしておこう」



 本物の刀そっくりに寄せた小道具なのかもしれないし、或いは真剣が中で錆びているのかもしれない。なんとかそう理由付けると俺は近くの公衆電話ボックスに立て掛けた。


 そもそも道端にぽつんと刀が落ちているというだけでも怪しさ満点なのだ。触らぬ神に祟りなしということわざがある通り、見なかったことにしてこのまま通行人の邪魔にならないように立て掛けて置くのが無難だろう。


 そう思った俺はそのまま歩き出そうとしたのだが———、



『ちょちょ!? ちょっと待てそこの人間!?』

「んあ……?」



 突如耳元に響き渡る声。もしや自分に話し掛けられたのかと思い立ち止まって辺りをきょろきょろと見渡してみるも、こちらに呼び掛けるような人の姿は見受けられない。

 俺の視界に映るのは普段歩き慣れた通学路の風景、そして先程電話ボックスに立て掛けた刀が風か何かでカタカタと金属音を震わせているくらいだ。なんだかいつもより通行人や車の通りが無く外が静かなような気もするが、きっとそういう日なのだろう。


 気の所為か、そう思い再び歩みを進めようとするも再度その声が俺を呼び止めた。



『いやいやちょっと待てと言っておろうに! ちゅーにんぐをミスったかのぅ? こっちじゃこっち!!』

「……こっち?」

『そうそう! ……ふぅ、ようやく目と目があったのぅ。ないすばでーな美しいこの妾が放置された時はいったいどうしたもんかと思ったが、お主がここを通り掛かってくれて助かったのじゃ! 礼を言うぞ、人間』

「………………」

『ん? どうして後退りしておるのじゃ、人間?』



 再び耳元———いや、正確に言うのであれば可愛らしい幼児のような声が。先程までは全く気にしなかったが、向こう側に人が居て呼び掛けられるのならまだしもこのように声が頭の中に反響するのはあまりにも不自然。


 そして、俺に話し掛ける人間が周囲にいない以上、その声の主は絞られて。俺は、つい先程地面に立て掛けたソレを注視しつつ後退る。



「は、ははっ、疲れてるのかな俺? 刀なんかが喋る筈無いのに」

『なーに言っとるんじゃ、実際にこうしてお主に話し掛けておるではないか』

「あ、わかった夢だな。ったく、刀が喋るとかゲームや漫画かよ〜。……オラァッ!!」

『人間!?』



 俺は自分の頬を思いっきり拳で殴ってみるも、ただ痛みが走るだけで周囲には何も変化はない。つまり、目の前の刀が俺に話し掛けてきているのは現実ということで間違い無いだろう。


 チカチカと視界に火花が散ったまま、俺は頬を押さえながらも動揺する。



った!? マジか、夢じゃないのか!?」

『はぁ、だからさっきからそう言ってるではないか人間。ただでさえ冴えない顔なのに遂に気でも触れたのかと思ったわ』

「普通に考えて刀が喋るなんて思わないだろうがっ!? あと最後のは余計ですぅ!」

『事実じゃろうに』



 たかだかロリ声の刀如きに容姿に関して思わぬ罵倒を受けてしまうが、地味にダメージを受けるのでやめてほしい。ただでさえクラスメイトからは死んだ魚の目をしていると言われるのだ。


 初対面とはいえ、正直そう無遠慮になじられてはあまり良い気分ではない。ぷちり、と頭の毛細血管が切れた音が聞こえたが、俺はそれに構わずに怒りを滲ませながらにっこりと笑みを浮かべた。



「はいはい、そうですか。それなら冴えなくてモブみたいな顔をした存在感が薄い俺よりももっとイケメンで優しくて親切な人に出会えれば良いですね! それじゃあさようなら!」

『えっちょっ、そこまでは言ってな……っ。お、置いてかないで欲しいのじゃ〜!!』

「………………」



 背後からヘンテコな刀が泣き叫ぶ声が脳内に響くが、俺はそれを無視して歩き続ける。『すまなかったのじゃ』とか『許して欲しいのじゃ』など懇願しながら声を震わせているが、今更そう言ってももう遅い。

 焦っているのか地面と鞘の先端が擦り合ってカタカタと耳障りだが、次第にそれも遠ざかっていく。



(……犬に噛まれたと思って忘れよう。刀が喋るなんてどう考えても非現実すぎだろ)



 普段は感情的になることはあまりないのだが、今日は高校で少し嫌なことがあったので思わずかっとしてしまった。

 売り言葉に買い言葉。反省する点は多々あるも、道端に転がっていた怪しさ満点の刀に構うのはここまでで十分だろう。


 はぁ、と軽く溜息を吐きながら俺はそのまま歩みを進めようとするが———。



『もう、一人ぼっちは嫌なのじゃ……』

「———っ」



 既に頭に響く声が弱々しくなっていたその時、ふとそんな言葉が聞こえた。思わずぴたりと足を止めると、俺はがしがしと頭を掻く。


 そして元来た道を戻ると、電話ボックスに立て掛けた刀を見降ろした。



「なぁ」

『っ! に、人間……っ』

「お前、名前はなんていうんだ?」

『し、知らないのじゃ……。妾、ずっと暗い場所に居て、つい先日目覚めたばかりじゃったから……』

「……そうか」



 この喋るヘンテコな刀がどういう事情を抱えているのかは知らないし、知る気もない。ただ、目の前のコイツはかつてと境遇が少し似ている。


 少しでも、ほんの僅かでも自分と重ねてしまったら、もう放っておくことなど出来なかった。



「一人ぼっちは、寂しいよな」

『え……?』

「———お前、俺と一緒に来るか?」

『よ、良いのか……?』

「どうせ帰っても広い部屋に一人きりだし、お前みたいな奴が一本二本増えたところで変わりゃしねぇよ。それに、話し相手くらいにはなるだろ」

 


 平凡な高校生である俺だが、現在はとある事情で一人寂しく優雅で華麗なマンション暮らしをしている。因みに家事や自炊など一通りこなせるので一人暮らしには何の支障もない。


 これから同居人として喋る刀が増えたとしても、部屋の壁は防音仕様。お隣さんや周囲の住民に迷惑を掛けることはないので、きっとその点は大丈夫だろう。


 俺はコイツを握ると、そっと目を細めて視線を落とした。



『そ、そうか……! 恩に着る! ではこれから世話になるぞ、人間!』

「人間じゃこれから区別しにくいだろ。俺の名前は常盤優一。優一って呼んでくれ」

『わかったのじゃ、優一!』



 そうして俺たちはマンションへと帰路に着く。



(ん……なんだ?)



 暫く歩き続けていると、身体に強めの衝撃のようなものが走る。上手く説明出来ないが、まるで静電気のようなピリッとした感覚だった。


 一瞬だけだったので別に身体に異常はないが、そんな違和感に首を傾げつつも、このまま歩みを進めたのだった。













「…………いったい、どこに消えたのでしょうか」



 ———宵闇の空を背後に銀髪の少女は呟く。制服のスカートをひらひらと靡かせた切れ長で綺麗な瞳をした彼女の声は、一陣の風に吹かれて儚く溶けた。
















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お久しぶりです、ぽてさら(/・ω・)/です!!


ちょっと久々にファンタジー系を執筆してみたいと思いまして、新作を更新しました。

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