第6話 【氷装の魔女】
そう静かに問い掛けるリーナ。やや警戒の滲んだその眼差しは見事に俺を射抜いており、そのアイスブルーの瞳の色も相まってとても冷たい印象を与える。
彼女の片方の瞳がうっすらと輝いて見えるのは気の所為だろうか。
「は、はぁ!? 何者って……お前の方こそいったいなんなんだよ!? いきなり襲ってきて何言ってるんだ!?」
「白々しいですね。いくら周りを誤魔化せたとしても私の目は誤魔化せませんよ。その禍々しい気配……貴方の方こそ、いったい何を飼ってるんですか?」
「飼ってるって……知らねぇよそんなの!!」
生まれてこの方、俺は一度も犬も猫も飼ったことなどない。何を以ってして飼ってると口にしたのかは不明だが、彼女の指摘は見当違いも甚だしい。
状況も状況だ。襲われたと思ったらその正体が転校生で、しかも訳もわからない力で俺に攻撃してきた。非科学的な力を突然目の当たりにしたのだ、自分で言うのもなんだがパニックにならない方がおかしいだろう。
なんとか気丈に振る舞うも、未だに心臓がバクバクとしている。
どうやらリーナは俺が取り繕っていると捉えたようだ。警戒の色はそのままに、しかしどこか納得したように言葉を続けた。
「
「同業者……?」
「そうですね。改めて名乗りましょうか」
そう言って彼女は上品な仕草で胸の上に手を置く。そうして真っ直ぐにこちらを見つめて自己紹介を始めた。
「私の名はリーナ・アンデルセン。個人で活動している異能者で、二つ名は『
「い、異能者……? 魔女……?」
「さぁ、次は貴方の番です。どこの所属の異能者ですか? 日本にある各支部はある程度把握してますが」
「えっと、木更津高校二年生の常盤優一だけど……?」
「はぁ。ですから、貴方の所属を……」
「いやだから……何それ?」
「………………?」
「………………ん?」
イマイチ噛み合わない会話に眉を顰めながらそのように訊ねると、俺とリーナの間には変な空気が流れる。異能者やら魔女やら、漫画やゲームでしか聞かないようなワードがちらほら出てきたが、一体なんなのだろうか。
瞬きを繰り返していると、今まで静かにしていた黑鳴が話し掛けてきた。
『……のぅ優一。もしやお主、その”異能者”とやらと勘違いされとらんか?』
「えぇ……」
思わぬ指摘に呆けた声が漏れる俺だったが、それと同時に、今まで表情をきょとんとさせながら身体を硬直させていたリーナが恐る恐る口を開く。
「あの……もしかして常盤さん、別に能力など持ってらっしゃらない……?」
「まぁ、普通の高校生なんで」
「それじゃあ、教室で貴方の気配がまったく無かったのは?」
「こいつの能力ってヤツ?」
「……私の勘違い? いえ、しかしこの膨大な霊力は…………」
「っ」
こちらをじーっと見つめながらリーナは顎に手を当てて考え込むが、その表情は終始訝しげだ。そのガラス玉のような綺麗な瞳に、呑み込まれるような視線に思わず俺はどきりとしてしまう。
しかし冷静になれ俺。絶世の外国人美少女とはいえ、いかんせん彼女はいきなり俺を殺しに掛かってきたヤバい奴である。きっと先程彼女が口にした『飼っている』という言葉も右手に持っているこの黑鳴の存在を指してのものなのだろう。
何せ俺はただの男子高校生。魔法や魔術といったサブカルチャーでよく見るファンタジーに憧れこそ抱いたことはあるが、現実にあるとは微塵も考えたことはない。禍々しい気配などといった超常現象とも無縁のごく普通の生活を送っていた。
つまり、一般人である俺が異能者とかいうヤバい奴に襲われた原因は———。
「お前の所為じゃねぇか!!!!」
『ぬうぉぉぉああああっ!! 勢い良く揺らすでない〜っ!!』
「うるさいわ!! そりゃ咄嗟に引っ張って助けてくれたのは感謝してるぞ? でもそれはそれ、これはこれ!! 黑鳴お前俺になんかした!? なんか彼女小声で膨大な霊力うんたらって言ってたけど!?」
『そんなこと言われても妾だって知らんわ!!』
小声で黑鳴とギャーギャーと言い合いをしていると、ふとリーナと視線が合う。先程まではこちらを観察するように見ていたので若干くすぐったかったが、今ではその瞳が
そういえば、こうして黑鳴と会話するにもチューニングとやらが必要らしい。現在はこうして黑鳴に話し掛けている訳だが、第三者の彼女には聞こえない筈で。
「……こほん、まずは申し訳ありません。私の勘違いとはいえ、そのカタナを拾った貴方を異能者と勝手に判断して私の異能で攻撃してしまいました。側頭部の三半規管を掠めるように狙ったので殺傷能力は著しく低いとはいえ、深くお詫びを」
「待ってそんな憐れんだ目で見ないで!? 別に俺おかしくなってないから!?」
「スィー、大丈夫です。常盤さんが物に話し掛ける珍しい人であることは誰にも言いません。私、これでも口は硬い方なのでご安心を」
「誤解だぁぁぁ!!!」
よい気味じゃ、と鞘をカタカタと揺らす黑鳴をよそに俺は思わず頭を抱える。
もはやリーナに異能とやらでいきなり攻撃されたことなどどうでも良い。俺はただ無機物と会話する頭のおかしい変人認定されるのはどうしても嫌だった。それならば黒曜姫と呼ばれている榊原を振った男子として噂される方が幾分かマシである。
俺はただ、普通の男子高校生としての生活を送りたいのだ。
「それでですね常盤さん。一つお願いがあるのですが良いでしょうか?」
「あぁ、俺への認識を改めてくれるのならなんでも良いぞー……」
「そうですか。ではお言葉に甘えて単刀直入に申し上げます」
リーナは少しだけホッとしたような表情を浮かべると、次のように言葉を紡いだ。
「———そのカタナをこちらに渡して頂けないでしょうか?」
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