第126話 美しい姉弟愛


 大食い対決を開始してから1時間の時が経った。


 2人とも、お腹が限界になるとスプーンをテーブルの上に置く。テーブルの上にはライトの前に皿が10枚重ね、そしてエルダーの前は皿が5枚重ね置いてある。


ライト 「ふぅぅ~~~最高だったぁ…」


 たらふくオムライスを食べ幸せの余りにライトは余韻に浸っているとエルダーはサングラス越しに涙を流す。


エルダー 「負けた…。貴族校で一番の大食いの僕が負けた…」


 プルプルと肩を震わせながら顔を俯け悔し涙を流すエルダーの姿にネイリーは頬杖をつきながら横目で見つめる。


ネイリー 「私にも貴族校に通う君のような年ごろの弟がいるのだが…」


 ネイリーが話し始めるとエルダーの震えが収まり顔を見上げる。


ネイリー 「もし弟がこのぐらいの量を平らげる男になったのなら姉として誇らしいよ。いつまでも子供だと思っていた弟が成長したという事だな」


 エルダーはハンカチを取り出し涙を拭うと対面に座るネイリーの顔を直視する。


エルダー 「弟君に何か他に残しておきたい言葉はありますか?貴族校なら伝えられるかもしれません」


ネイリー 「不在の間に旅に出てしまい申し訳ない。私はいつまでも弟の幸せを願っている…と伝えてくれ」


エルダー 「わ、わかりましたっ!」


 エルダーは頬を赤く染め元気一杯の返事をする。


ライト 「そういえばネイリーには弟がいるって前に話してたな」


リリア 「どんな子なんだろ~?」


 リリアの問いにネイリーは足を組むと顔をニヤリとする。


ネイリー 「あぁ。弟のエルダーは私にとって世界一、紳士な男なんだ。まだ13歳なのにいつも私を気に掛けてくれる」


 ネイリーは誇らしげに弟の自慢話をするとマーサとビリーの目から涙が滝のように流れる。


マーサ (なんて素敵な姉弟愛なの~~~!泣けてしまいます~~~!)


ビリー (うおおおおおおおおおお!!最高の姉弟愛だ~~~~!!涙が止まらん~~~~!)


 エルダーの顔はどんどん赤くなり嬉しさの余りに口元が緩んでいく。


リリア 「流石ネイリーの弟~!きっとライトと大違いでしっかりしてるんだろうなぁ」


 リリアは手を合わせるとネイリーの弟像をニヤつきながら想像する。


ライト 「お、俺だってしっかりしてるぞ!」


リリア 「え?どこが?髪はボサボサだし歯磨きもすぐ忘れるし、一番最悪なのは顔を洗うのも忘れちゃう事!猫だって顔を洗うのに」


ライト 「た、たまたま忘れてただけだって!何回も同じ事をグチグチ言うなよ!」


リリア 「はぁ~~~?こっちだって何回も言いたくないから!」


 ライトとリリアは立ち上がり言い争いになると、ネイリーはサングラスを身に着けているエルダーに向い微笑む。


 エルダーはネイリーと目が合うと咄嗟に逸らすがにやけが止まらず顔を赤くしたまま顔を俯ける。


エルダー (僕にとっても姉様は世界一素敵な女性だよ!)


 全員、飲食店の外へ出るとエルダーはライトに対し指をさす。


エルダー 「今日は負けたけど次あった時は勝つ!!」


ライト 「へ?次?」


マーサ 「報酬金は冒険者ギルドに渡してありますので」


ビリー 「我々は行く。依頼、ご苦労であった」


 ライトは目を丸くし首を傾げるとエルダー、マーサ、ビリーは背中を見せ歩き出す。


エルダー (ねえさま~~~~!!僕は…僕は離れたくないよぉぉぉ~~~!)


マーサ (ううぅ…。ネイリー様っ!侍女のマーサはいつまでも旅の無事を願っております!)


ビリー (ネイリー様。ライト様をエルダー様が認める男に仕上げる旅、頑張って下さい!)


 去っていく3人の後ろ姿を眺めながらライト達は呆然とする。


ライト 「何だったんだ?ご飯たらふく食って終わったぞ?」


ネイリー 「これで依頼は終わりか…」


リリア 「何か変な依頼だったね…。とりあえずマレインがいるファイヤー村に向おっか」


 3人はファイヤー村でルルと共に稽古をするマレインの元へと向かい歩き始める。


——————————————————


 3人は光景を思い返しながら語り終えるとマレインは息を呑む。


マレイン 「えっ!?食べたら終わり!?今、流行ってる闇依頼じゃないよね!?」


 顔を前に突きだしマレインは動揺しながらライト、ネイリー、リリアを順々に見つめていく。


ライト 「うん。大丈夫だったんだけどさ。あの少年、何か俺に対してすっげーライバル意識が強かった気がすんだけど…。ありゃ、なんだったんだ?」


 依頼主の人物に心当たりがあるネイリーはテーブルの上に腕を置くとため息をつく。


ネイリー 「あの少年は恐らく私の弟のエルダーで、後は侍女のマーサと護衛隊長のビリーであろうな…。旅に出る前、エルダーは休暇前で別れの挨拶を言えなかったからきっと心細かったんだろう」


ライト 「弟!?俺と一体何が関係あるんだ!?俺、何かしたか!?」


 ネイリーの顔先までライトは顔を突き出す。ネイリーはライトの顔が急に接近し椅子に背もたれ腕を組む。


ネイリー 「いや…。私も詳しくは分からん。同じ男として何か気にくわなかったのでは無いか?」


ライト 「気にくわない!?何で!?意味わかんねぇ…」


 テーブルの上に腕を組み顔を乗せるライトをよそにリリアはライディールと出会った時の事を思い返す。


リリア (きっと、ライディール様と一緒でただ単にネイリーの側にいる男の人は全員、気にくわないんだよね)


 足を組み凛々しい顔立ちをするネイリーにリリアは横目で見つめながら微笑む。


マレイン 「あぁ。そういえばネイリーの弟君はオリヴィエと同級生だったね。逢いに来たのかな?」


ネイリー 「どうやら火の精霊祭を観にきたらしい」


 火の精霊祭が迫っている事を忘れていたマレインは天を仰ぐ。


マレイン 「そっか。そういえばそんな時期だね。私も近々一度、屋敷に戻らないといけないな。流石にこの服装で王宮に出向いたら父上に怒られるし」


 庶民の恰好をしたマレインはふふっと笑い声を漏らすとライトは浮かない顔で見つめる。


ライト 「マレインとは———お別れなのか?」


 口角を上げ笑みを浮かべていたマレインは問われた途端下がる。


マレイン 「火の精霊祭は王族が主催だからね。私も火の魔法が扱えるようになったから出席しなきゃ。あっ!ライト、ネイリー、リリアは特等席に案内するよ!私をここまで支えてくれたしね。せめてもの恩返しに」


リリア 「何だか、寂しいな」


 作り笑いをするマレインだがリリアはついつい本音をポロリと零す。


マレイン 「うん、私も寂しいな…。と、とりあえず!ファイヤー村の依頼を受けて調査しないと!すぐに屋敷に帰る訳じゃないから大丈夫だよ」


ライト 「そうだな!明日の依頼、頑張ろうぜ!」


ネイリー 「あぁ。そうだな」


リリア 「うんっ!ルルの為にも依頼を達成させないとねっ!」


 4人は依頼に対し意気込むと注文した料理を持つ店員が現れる。


 「おまたせしました!”海鮮パスタ”です!食後に"メロンクリームソーダ"をお持ちします!」


 ライト達が着席するテーブルに海鮮パスタが運ばれると小分けようの小皿とトングを置き店員は一礼すると去っていく。


リリア 「今、小皿に分けるから待っててね」


 チーズはトロトロに溶け見た目から食欲をそそる海鮮パスタにライトは目を輝かせながら早く食べたさの余りに今か今かと待ちわびる。


マレイン 「リリア。今日も手伝うよ」


リリア 「マレイン、ありがとう~!」


 2人は4等分に小分けするとリリアはライトに渡し、マレインはネイリーに渡す。ライトはフォークをくるくると巻き麺を絡ませると口の中へ運ぶ。


ライト 「あっつ!ふまい!あっつ!!ふまーーーい!」


ネイリー 「ゆっくり食べろ。口の中が火傷するぞ?」


 ネイリー、リリア、マレインもフォークをくるくると回し麺を絡ませると口の中へ運んだ瞬間、美味しさの余りに笑みが零れる。


ネイリー 「こ、これは…!トマトソースの酸味をホワイトソースでまろやかにして海鮮の具材とマッチして美味しいな」


リリア 「すっごく美味しい~~!チーズもとろっとろだし!再現できるようにメモしておこ!」


マレイン 「うんっ!すっごく美味しいね!こんな料理もあるんだ」


 4人は”海鮮パスタ”の味を噛みしめながら食べ終わると食後のデザート、”メロンクリームソーダ”が運ばれる。


 さっぱりとしたアイスクリームと爽やかなソーダでチーズでもったりとしていた口の中をスッキリさせる。


 一時は金銭に悩まされていたがマレインも無事に火の魔法を習得し金銭が潤い順調な4人は美味しい料理を食べながら幸せをかみしめる。

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2024年12月23日 11:00
2024年12月30日 11:00

精霊の贈り物~【友情×努力×勝利】特殊能力を持つ主人公は自由に飛び跳ねる!王道冒険ファンタジー~ 虹凛ラノレア @lully0813

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