第125話 挑む少年

 男女の人物はネイリーと目が合うと逸らし、背中を見せるとライトとリリアはネイリーを中心に肩を寄せる。


ライト 「何か変な奴等だな!」


ネイリー 「あぁ…。怪しい依頼でなければ良いのだが…」


リリア 「本当に最近流行っている闇依頼じゃないよね?」


 ヒソヒソと話す3人に少年は前に出る。


 「あそこの宝石店に行きたい」


 少年はすぐ側にある宝石店に指を差すとライト達は頷き後をついていく。


 宝石店に辿り着くと少年と付き人の男女は店内へと入っていく。


 「いらっしゃいま———っ!?」


 店内に入る3人に対し店員は言葉を述べるが妙な恰好に驚きカウンターに急いで戻ると隠れるように屈む。


 少年は棚に身を隠しサングラスを外すと店外で待つネイリーの姿を見つめる。


 「もうっ!ネイリー姉様ったら僕が学校通っている間に旅に出るだなんて!別れの挨拶ぐらいちゃんとしてくれたって良いじゃないか……」


 少年はネイリーの姿を見つめながらため息をつくと肩を落とす。


マーサ 「エルダー様。お気持ちは分かります。私、ネイリー様の侍女であるマーサも、そしてビリーも寂しくて退屈な日々でございます…」


ビリー 「えぇ…。でも、ネイリー様がお元気そうで良かった…」


 3人は棚に身を隠しながら窓越しで立つネイリーの姿を見つめる。


 風が吹き込みネイリーの長い艶やかなピンク色の髪がなびくとエルダーから笑みが零れるが近くに立つライトが視界に入り眉を寄せる。


エルダー 「にしても…あの男性は誰?」


 ネイリーの近くに立つライトは小さな木を背もたれにし腕を組み笑いながら話す。2人だけの楽しい空間にエルダーは嫉妬する。


ビリー 「あのお方はライト様です。将来、ネイリー様の旦那様に———」


 マーサは話している最中のビリーの頬をはたく。


マーサ 「ビリー!」


ビリー 「はっ!!」


 頬をはたかれビリーは口元を手で覆い斜め下にいるエルダーに目線を移す。マーサはビリーの耳に口を寄せる。


マーサ 「またあなたは大きな勘違いをして!ネイリー様とライト様が結婚出来る訳ないでしょう!」


ビリー 「いや、わからないぞ!俺の勘は当たる(自称)!」


 如何にも不服そうな表情を見せるエルダーを前に動揺しながら2人はヒソヒソと話す。


エルダー 「へ~~?ふ~~ん?じゃあ姉様に相応しい男性なのか弟である僕が試さないとね」


マーサ 「エ、エルダー様!」


ビリー 「お待ちください!」


 2人は引き留めるがエルダーはサングラスを掛けなおすと出入り口へ向かい歩きドアを開ける。


ライト 「んっ?もう買い物したのか?」


 店内から出るエルダーの姿にライトは気付き背もたれにしていた木から離れると片足でバランスを整える。


エルダー 「ねぇ、君。僕と勝負しよう?」


 当然の提案にライトは目を丸くしポカンと口を開ける。


ライト 「へっ?勝負?何で?」


エルダー 「勝負内容は男なら大食い対決だ!」


 一方的に話すエルダーだが、ライトは不気味な声を出し笑い始める。


ライト 「ふふっ…。俺に大食い勝負だなんて良い度胸してんな?それでこそ男だ!受けて立つぜ!」


 ライトは人差し指を突き出すとエルダーは眉を寄せ口元を歪ませる。


エルダー (成長期真っ只中の僕を見くびるなよ!こう見えて貴族校では一番食べる男なんだ!そして僕はいずれ父様の後を継ぐサファイアローメン国の王になる!王たるもの大きくないと!)


 2人はバチバチに火花を放つように見合う。妙な光景にリリアはネイリーの耳に口を寄せる。


リリア 「ね、ねぇ。これってやっぱ怪しい依頼じゃない?」


ネイリー 「護衛するのに勝負を挑まれるとは…。まぁ、大食いなら良いかもだが…」


 全員が飲食店に向いライトとエルダーは並び椅子に着席する。


ライト 「食べる料理は何にする?俺は何でもいいぜ?」


エルダー 「ふぅん?随分、自信満々だね?じゃあ、これにしよう」


 メニュー表に指を差すとライトはニヤリと笑う。


ライト 「”オムライス”か…。負けても泣くなよ?」


エルダー 「誰が泣くものか。あっ!姉様———ゴホンっ!女性の方々は自由に好きなものを食べててくれ」


 エルダーはネイリーとリリアの顔を交互に見つめ話すと店員を呼び止めオムライスを注文する。


 護衛依頼を受けたはずが、何故か好きなものを食べて良い事になりネイリーとリリアは違和感を覚えながらメニューを決め注文する。


 ライトは隣に座るエルダーの服装を下から上へと眺めていく。


ライト 「服装から見てサファイアローメン国のようだけど…」


 青い刺繍が細かく入り込まれている服を着用しているエルダーは振り返る。


エルダー 「その通り。僕達はサファイアローメン国から来たんだ。ダイヤスファ国で開かれる火の精霊祭を観にきた」


ライト 「へぇ?火の精霊祭って他の国からもくるんだ」


ネイリー 「大きな祭りだからな」


リリア 「そっかぁ。貴族様なら観にくるよね~!」


 「おまたせしました!”オムライス”です!」


 雑談をしているとライトとエルダーの前にオムライスがのった皿が置かれる。ライトはスプーンを握るとエルダーの方へ首を動かす。


ライト 「食事代は気にしなくて良いんだよな?」


エルダー 「あぁ。全部、僕が支払う」


 ライトは不気味に笑うとエルダーに向いスプーンを突き出す。


ライト 「俺の本気を見せてやるっ!」


エルダー 「そのままセリフを返す!」


 エルダーもスプーンを握るとマーサは手を一定の距離まで離す。


マーサ 「よーい。はじめ!」


 マーサが手を叩くと2人はオムライスをもくもくと食べ始める。


エルダー (みててね!姉様!僕の勇ましい食べている姿を!)


 ライトとエルダーは無我夢中でオムライスを食べていく。


 ライトが握る、オムライスから口の中へと運ぶスプーンの動きは速く対面で眺めているネイリーとリリアは呆れる。


 エルダーはオムライスを3分の1まで平らげると隣に座るライトの様子を横目で伺う。腕を縦に伸ばし手をあげる姿が見える。


ライト 「おふぁふぁり~~!!」


エルダー (な、なにっ!?早すぎるぞ!?姉様が認める男性はこんなにも凄いのかっ!?)


 口にオムライスを含みながらおかわりをするライトにエルダーは焦り始める。


ライト (ふぅ~~~。まだ食い足りねぇな…。ここんとこ金欠で全然食えなかったしなぁ…)


 口に含んでいた料理をモグモグと噛むと飲みこむ。ライトは次の料理が運ばれるまで目を閉じ待つ。


エルダー (料理が来るまで瞑想し始めたぞ!?これは中々の強敵だ!品のある食べ方を教わっていた僕だがここは仕方がない!)


 高を括っていたエルダーは大きく口を開けオムライスを運ぶと噛む速度を速める。ゆっくりと上品に食べる事を辞め、口元の周りに米粒がつきながらオムライスを頬張る。


 ライトの席にオムライスが置かれるとエルダーも腕を縦に伸ばし手をあげおかわりをする。

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